世界では毎年3億9000万人のデングウイルス感染が発生し,そのうち9600万人がデング熱を発症するとされている。
流行地域は熱帯地域全域におよび,アジア,アフリカ,中南米,カリブ海,南太平洋の島嶼国などで大流行が繰り返されている。この地域では人口の増加と都市化が急速に進んでいることから,患者数は増加傾向にある。また,地球温暖化による媒介蚊の棲息域の拡大から,デング熱発生地域も拡大している。さらに,世界的な旅行人口の増加により,媒介蚊のいない地域でも輸入症例が増加している。
ヤブカ属のネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)がデング熱の流行の要因である。ネッタイシマカは熱帯地域に広く分布し,ヒトへの吸血嗜好性が高く最も重要な媒介蚊である。小さな容器(花瓶,古タイヤ,水がめ,空き瓶,ドラム缶など)に溜まる水で繁殖するため,熱帯地域ではシンガポールなどの近代的な大都会でも,デング熱の流行が発生する地域となっている。1970年代まで沖縄にも棲息していたが,現在は存在しない。
一方,ヒトスジシマカは熱帯・温帯地域に広く分布している媒介蚊であり,わが国では夏季に沖縄から東北地域までを棲息域としている。2014年に東京で発生したデング熱の流行もこの蚊がウイルスを媒介しており,わが国での流行リスクが内在する所以である。