黄熱は蚊によって媒介される致死性のウイルス性疾患であり,サハラ砂漠以南のアフリカ34カ国,南米13カ国に流行を認める1)。2013年のアフリカでの黄熱患者数は13万人,死亡者数は7.8万人にも上ると推計される2)。2017年の検査診断から報告された症例数は876例であり,これは検査体制の不備等から過小評価されていると考えられる。
近年では2015年12⽉~16年9月にかけてアンゴラ共和国およびコンゴ民主共和国で大規模な流行を認め,合計6668例の疑い症例および388例の死亡例が報告された。また,アンゴラ共和国からの輸⼊感染例がケニア共和国(2例)および中華⼈⺠共和国(11例)で報告されている3)。南米のブラジルにおいても,これまで流行を認めていなかったリオデジャネイロ州およびサンパウロ州で流行を認め,2016~17年には778例の患者と262例の死亡症例を,2017~18年には1376例の患者と483例の死亡症例が報告されている4)。また,ブラジルへの渡航者に,10人の黄熱患者(そのうち4人の死亡を含む)が報告された5)。
黄熱ウイルスは,主にヤブカ(Aedes)属〔特にネッタイシマカ(Aedes aegypti)〕,その他Haemagogus属(主に南米)およびSabethes属等の蚊の刺咬によって媒介される。宿主はヒトとサルであり,黄熱のウイルス血症を呈したヒトやサルからの吸血後,蚊の中でのウイルスの増殖には4~10日を要し,それ以前には感染力はない。アフリカでは,雨期を中心に人の居住地近くでヒトとサル(主にアフリカミドリザル)の両方が感染宿主となる都市型感染を,南米では熱帯雨林地帯でサル(リスザル,マーモセット,ホエザル,クモザルなど)を通じて感染するジャングル型感染を特徴としてきた6)。また近年,2008年のパラグアイでの都市型感染による流行以降,南米でも都市部近郊での大きな流行を認めている7)。