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⑥ウイルス:MERS[特集:わが国で注意が必要な“熱帯病”]

No.4976 (2019年09月07日発行) P.30

馳 亮太 (日本赤十字社成田赤十字病院感染症科部長)

登録日: 2019-09-09

最終更新日: 2019-09-04

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【日本での流行予測】

【ワクチン】

  

1 世界の発生動向

MERSとはMiddle East Respiratory Syndromeの略で,日本語では中東呼吸器症候群と訳される。2012年にサウジアラビアで初めて報告され,2019年7月末の時点までに,2458例の確定診断されたMERSの発生が報告された。このうちの8割以上の症例がサウジアラビアで発生している1)。アラビア半島以外の国での発生例は,輸入症例または輸入症例を発端とした国内感染症例であり,2015年に隣国の韓国で1例の輸入症例から計186症例のアウトブレイクが起きたことは記憶に新しい2)。わが国では2019年7月において1例も発生していない。MERSの感染力はそれほど強くないと考えられており,市中よりも医療機関内で感染が拡大しやすいことも特徴である。

2 媒介生物

MERSの原因微生物はMERS-CoVと名付けられたコロナウイルスの一種である。もともとの宿主はコウモリである可能性が指摘されているが3),ヒトへの感染は主にヒトコブラクダを介して成立すると考えられている。ヒトコブラクダが媒介生物であることは,MERSを発症した患者から検出されたMERS-CoVの遺伝子配列が,その患者が飼育していたヒトコブラクダから検出されたMERS-CoVのものと一致したことによって証明された4)。ヒトコブラクダの鼻汁や唾液などの分泌液およびミルクからもMERS-CoVが検出されており,これらに濃厚接触することでヒトに感染すると考えられている。サウジアラビアや他のアラビア半島で飼われているヒトコブラクダは高率にMERS-CoVへの抗体を有していることが判明しているが,わが国で飼育されているヒトコブラクダにおいては,抗体保有は確認されておらず,ウイルスも検出されていない5)

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