マダニによって媒介されるスピロヘータの一種で,ボレリア(Borrelia)の感染によって引き起こされる人獣共通感染症である。わが国はBorrelia bavariensis, Borrelia gariniiが主な病原体となっている。マダニ刺咬後にみられる関節炎,遊走性皮膚紅斑,良性リンパ球腫,慢性萎縮性肢端皮膚炎,髄膜炎,心筋炎などが,現在ではライム病の一症状であることが明らかになった。
欧米の現状と比較してわが国でのライム病患者報告数は少ないが,野ネズミやマダニの病原体保有率は欧米並みであることから,潜在的にライム病が蔓延している可能性が高いと考えられている。
紅斑部の皮膚や髄液(髄膜炎,脳炎の場合)から病原体をポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)法や分離・同定法により検出する。あるいは,血清中の抗体を証明する〔スクリーニングには酵素免疫測定法(enzyme immunoassay:EIA)または間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence assay:IFA)を用い,確定診断にはwestern blotting(WB)法を用いる〕。感染症法では全数報告対象(4類感染症)である。
マダニ刺咬部を中心とする限局性の特徴的な遊走性紅斑を呈することが多い。随伴症状として,筋肉痛,関節痛,頭痛,発熱,悪寒,倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともある。紅斑の出現期間は数日から数週間と言われ,形状は環状紅斑または均一性紅斑がほとんどである。この病期の治療にはビブラマイシン®(ドキシサイクリン),サワシリン®(アモキシシリン),オラセフ®(セフロキシム アキセチル)が推奨される。ライム病ではAnaplasma phagocytophilum(ヒト顆粒球アナプラズマ症の病原体)等と重複感染を起こすことが知られているが,上記3剤の中ではドキシサイクリンのみがA. phagocytophilumに効果を示す。マクロライド系抗菌薬の効果は上記3剤に劣ると考えられており,何らかの理由から上記3剤を服用できない場合の代替薬として位置づけされる。
体内循環を介して病原体が全身性に拡散する。これに伴い,皮膚症状,神経症状,心疾患,眼症状,関節炎,筋肉炎など多彩な症状がみられる。顔面神経麻痺,神経根障害,髄膜炎症状等の中枢神経症状があれば,上記3薬剤の中で最も髄液移行性が良いビブラマイシン®(ドキシサイクリン)を使用する。脳炎等の重症中枢神経合併症を伴う場合には,ロセフィン®(セフトリアキソン)を使用する。有症状性の不整脈,脈拍(pulse rate:PR)間隔が0.3秒以上の1度房室ブロック,2~3度房室ブロックがある場合にもロセフィン®(セフトリアキソン)を使用する。経口抗菌薬で改善しない関節炎にもロセフィン®(セフトリアキソン)を使用する。
感染から数カ月ないし数年を要する。播種期の症状に加えて,重度の皮膚症状,関節炎などを示すと言われる。慢性萎縮性肢端皮膚炎,慢性関節炎,慢性脳脊髄炎などを呈する。中枢神経病変を伴わなければ,ビブラマイシン®(ドキシサイクリン),サワシリン®(アモキシシリン)、オラセフ®(セフロキシム アキセチル)を使用する。中枢神経病変を伴う場合にはロセフィン®(セフトリアキソン)を使用する。
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