サルモネラ属菌はグラム陰性の桿菌で,感染宿主の細胞内と細胞外の両者で増殖可能である。本菌の感染症であるサルモネラ症はチフス菌やパラチフスA菌によるチフス性サルモネラ症と,その他のサルモネラ属菌による非チフス性サルモネラ症にわけられる。サルモネラ属にはSalmonella entericaとS. bongoriの2種があり,S. entericaは6亜種にわけられている。ヒトから分離されるものはS. entericaのsubspecies entericaで,代表的なものに非チフス性サルモネラ症の起因菌としてよく知られているSalmonella enterica subspecies enterica serovar Enteritidis(S. Enteritidis)やSalmonella enterica subspecies enterica serovar Typhimurium(S. Typhimurium)などがあり,Salmonella enterica subspecies enterica serovar Typhi(チフス菌,S. Typhi)やSalmonella enterica subspecies enterica serovar Paratyphi A(パラチフスA菌,S. Paratyphi A)も含まれている。さらに,サルモネラ属菌は菌体抗原と鞭毛抗原の組み合わせで多数の血清型にわけられている。非チフス性サルモネラ症の病型は腸管感染症(腸炎)を主体とするが,菌が腸管上皮細胞内に感染することが誘因となり,感染部位へ白血球の浸潤が生じることが腸炎の原因であろうと推測されている。非チフス性サルモネラ症として腸炎以外に菌血症や脊椎炎,関節炎,骨髄炎があることはよく知られている。さらに,大動脈の粥腫に感染し大動脈瘤形成へ進展することもある。非チフス性サルモネラ腸炎の場合潜伏期は0.5~3日くらいで,散発例では菌に汚染された肉類など,動物性食品を感染源とする場合が多い。
通常は患者からサルモネラ属菌を分離することで診断する。腸炎であれば便から,菌血症や感染性動脈瘤であれば血液から起因菌を分離する。脊椎炎では生検材料,関節炎であれば関節液,臓器の膿瘍であれば膿瘍液から,それぞれ起因菌を分離して診断する。さらに,脊椎炎や骨髄炎,関節炎,臓器の膿瘍ではMRIのような画像検査が病巣存在部位の把握に適している。
腸炎以外の非チフス性サルモネラ症は糖尿病や透析患者など感染者の免疫能力が低下した状態で発生しやすい傾向にあり,そのような症例であれば当該患者の免疫状態を調べることが望ましい。特に腸炎を発症せずに腸炎以外の非チフス性サルモネラ症を発症した場合は,免疫状態の検索を行う必要がある。さらに,50歳以上のサルモネラ菌血症患者では動脈瘤の存在頻度が高まることが知られており,該当者では造影CTなどで胸腹部の血管を検索する必要性を指摘する報告もある。
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