【質問者】
荒木 学 河北総合病院神経内科副部長
【正確に診断し,適切な治療を行えば治療反応性は良好】
てんかんの発症率は乳幼児から思春期までと高齢者において高く,先進国では社会の高齢化に伴って高齢発症のてんかん患者が増加していることが問題となっています。てんかんの有病率は全体で1%弱ですが,60歳以上では1.5%まで上昇します1)。高齢発症てんかんは若年者とは異なる臨床的特徴を有するため,診療にあたっては留意すべき点がいくつかあります。
まず,病因としては脳血管障害(30~40%)やアルツハイマー病などの神経変性疾患が多いですが,背景疾患が明らかではない原因不明も1/3程度存在します1)。発作型としては,全般発作は稀で,ほとんどが部分発作であり,この点は治療薬を選択する際に重要です。部分発作の中では複雑部分発作が最も多く,ついで二次性全般化発作,単純部分発作の順になりますが,高齢者の複雑部分発作の症候は若年者とは異なるため注意が必要です2)。すなわち,前兆や自動症を伴うことが少なく,発作後もうろう状態が数時間~数日と長いことがあるため,特徴に乏しい一過性の異常言動・意識障害やまだらな健忘として現れます。このため,周囲の人や医療者から認知症と誤認されることもあります。脳波はてんかんの診断において重要な検査ですが,高齢発症てんかんでは初回の脳波検査で発作間欠期てんかん性放電を認めるのは26%のみであり3),てんかん性放電を認めないからといって診断を除外することはできません。このように,高齢発症てんかんの診断は難しいことがありますが,上述の特徴を理解した上でてんかん発作の可能性を念頭に詳細な問診を行うことが最も大切です。
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