2018年のノーベル経済学賞は、ポール・ローマー、 ウィリアム・ノードハウス両氏に授与された。ローマー氏の研究は、経済成長は技術革新によってしか起こらないことを示し、後に内生的成長理論と呼ばれる理論の基礎となった。
以前、ある国会議員が仕分けと称して、スーパーコンピュータの予算を削減する際に、どうして世界一でなければならないのか、二番じゃダメなのか、と発言し、多くの研究者から違和感の表明があった。一番でなければならない、というのは、科学者の皮膚感覚でもあるが、その理由はローマー氏の学説と深い関わりがある。
技術水準の向上は資本主義社会では儲ける機会である。技術水準を向上させる発明技術を持った人や企業(研究開発)に集中的に投資するほうが、より大きなリターンを期待できる。これは、「利益機会に投資し、利益を得ようとする」資本主義のシステムそのものである。技術水準はそれ自体が外生的に与えられるのではなく、研究開発など経済活動に依存して決まる点にも特徴がある。特許制度など、先行者利益保護の社会的仕組みが発達している現代社会では、一番でなければ研究開発の経済的意義はほとんどない。もちろん、研究や開発の目的は必ずしも経済的なものではない。自分の研究の目的は基本的には人類への貢献である、と表明している山中伸弥先生や、本庶佑先生のような研究者も少なくない。しかしながら、いずれのケースでも先行者利益を最大化するための、熾烈な登録争いがあったのも記憶に新しい。つまり、現代社会のシステムでは、一番にならない限り、金儲けも人類貢献もできない。
現在、先進的な医薬品や医療機器は、大幅な輸入超過である。わが国の医療・財政の持続性のためには、輸出できる医薬品や医療機器の開発が必須である。そのためには、科学研究や技術開発で一番をめざす以外に道はなく、効率的なシステムの構築や予算配分が重要な課題であることに異論は少ない。わが国の将来の医学の競争力も、これらの最新研究や新たな治療法開発に依存することとなる。医学部卒業者のキャリアプランに関する施策(研修、専門医制度など)も、将来の医学・医療の国際競争力の育成という視点を持って策定すべきであろう。