【好中球数が回復していない症例での抗菌薬中止時期の判断】
発熱性好中球減少症(FN)は,1980年代後半に初めて提唱された概念である。適切に治療されなければ,致死的となる。90年代に欧米の学会がFNガイドライン(GL)を作成し,その後わが国でも独自のGLが提示された。
FNに対する初期治療はエビデンスに基づき,致死性の高い緑膿菌に抗菌活性を有するβラクタム系薬の単剤治療が確立した。第4世代セフェム系薬,カルバペネム系薬およびβ-ラクタマーゼ阻害薬配合広域ペニシリン系薬が選択される。米国感染症学会(IDSA)GLの推奨薬である第3世代セフェム系薬のセフタジジムは近年,一部の連鎖球菌やグラム陰性桿菌に対する感受性の低下が指摘され,わが国のGLでは推奨薬より外された。
この領域では,FNに対する抗菌治療の中止時期に議論の対象が移りつつある。もちろん,好中球数が回復(≧500/μL)し病態が安定していれば,中止できる。しかし,実際にはFN治療後に解熱しても好中球減少が持続する場合もある。2017年に改訂されたFN診療GLでは,入院中で経過観察が可能な患者,また緊急時に受診可能な若年者であれば外来診療として,経口薬への変更もしくは中止を検討してもよいと提唱された1)2)。抗菌薬の無用な長期投与を避けることは,薬剤耐性菌選択の危険を回避するためにも重要である。
【文献】
1) 日本臨床腫瘍学会, 編:発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン. 改訂第2版. 南江堂, 2017.
2) Cohen KJ, et al:J Pediatr Hematol Oncol. 1995; 17(4):325-30.
【解説】
岩崎博道*1,重見博子*2 福井大学医学部附属病院 *1感染制御部・感染症膠原病内科教授 *2呼吸器内科