日常生活で何気なく使うものが、危険なものになることがあります。例えばお酒のおつまみのピーナッツですが、乳幼児が口にして誤嚥すると、肺炎になります。また、ボタン電池を飲み込んでしまうと、体内で毒性物質が出ますから、緊急に取り出さなければなりません。
さて、食器洗いや洗濯に洗剤が使われますが、この洗剤を誤って飲むと死亡する危険があるのです。
界面活性剤は洗剤などの主成分ですが、水に溶けたときの性質変化で陽イオン型、陰イオン型、非イオン型の3種に大別されます。
陽イオン界面活性剤は、たんぱく質を固まらせる作用が強く、殺菌、消毒、カビ防止などに用いられます。よく、公共施設などで、手に噴霧して消毒剤として用いられているものには、これが含まれています。しかし、陽イオン界面活性剤は毒性が強いので、人の粘膜を腐食する作用があります。もし、誤って飲んでしまうと、口の粘膜、食道や胃の粘膜が障害され、潰瘍などが生じます。さらにこれが血液中に吸収されると高率に死に至ります。
非イオン界面活性剤や陰イオン界面活性剤では、直接の粘膜刺激が少ないので、低濃度で何かに混入されても気づかないことがあります。もちろん高濃度あるいは多量に服用すれば嘔気が出現します。
界面活性剤は水に溶けやすいため、胃腸から血液中に吸収されます。
界面活性剤を飲んで死亡する例では、自殺目的がほとんどです。ある高齢者は、家庭用の液体洗剤(多くの家庭で台所にあるものです)を200mL飲んで死亡しました。また、シャンプーを150mL飲んだ人が死亡した事例もあります。このようにコップ1杯程度飲んだだけでも界面活性剤の吸収は早く、致死的不整脈等で死亡すると考えられています。
ここで、実際にあった事例を以下に2例ご紹介します。
ある老人施設では施設内の感染症蔓延を予防するために、部屋の入口に手指の消毒液が置かれていました。認知症の女性が、この消毒液を飲み物と思い、コップに分けて室内にいる数人に配ったのです。これを飲んだ高齢者が死亡しました。
また、ある家庭で、室内に良い香りがする虫除け剤が置いてありました。この虫除け剤は色がついているので、決して飲み物と誤ることはありません。この部屋に暮らしている老人が虫除け剤をラッパ飲みして、まもなく死亡しました。このとき治療にあたった医師は、「老人の口元から芳香剤の匂いがしたので驚きました」と話していました。この老人の胃内容物および血液中からは、虫除け剤に含まれている界面活性剤の成分が検出されました。
このように身近にあるものが毒となり得るのです。ご紹介した例は、自殺例ではなく、いずれも高齢者が誤って飲んでしまうという、事故死例です。今の時代、子供の手が届かないように、と気を付けるだけでなく、高齢者の手が届かないように、と気を付けることが必要ではないでしょうか。