Avoid prescribing antibiotics for upper respiratory infections.
(Infectious Diseases Society of America:February 23, 2015)
上気道感染症患者に抗菌薬を処方しない
(米国感染症学会:2015年2月23日)
急性上気道炎(upper respiratory infection:URI)の大部分はウイルス性であり,抗菌薬投与は無効であるだけでなく有害になりうる。しかし,A群溶血性連鎖球菌による咽頭炎や百日咳と確定診断された感染症は,抗菌薬治療が推奨される。
URIの治療は対症療法が中心となる。医療従事者が患者との対話を持ち,ウイルス感染症に対して抗菌薬を使用する場合,費用がかかり,耐性菌および副作用の増加につながる可能性について,情報を共有することは重要である。
2005年に行われた調査によると,URIと診断された2577人の患者のうち,60%で何らかの抗菌薬が処方され,セフェム系(46%),マクロライド系(27%),キノロン系(16%)の順に多く,抗菌薬を処方される頻度は病院外来よりもクリニックが高かった1)。この研究は10年以上前のものであるが,近年では2016年に日経メディカルの医師3365人へのアンケート調査が行われており,「いわゆる“かぜ”の患者に抗菌薬を処方すべきではない」と答えた医師は全体の45.4%にとどまった。また,かぜの患者に処方する抗菌薬として,25.8%がセフェム系,21.0%がマクロライド系,9.5%が広域ペニシリン系,7.3%がキノロン系と回答し,処方することはないと答えたのはわずか35.6%であった。翌年の医師3981人への別のアンケート調査では,かぜに抗菌薬を処方する理由として,「細菌性二次感染の予防」「ウイルス性か細菌性かの鑑別に苦慮」が多く,また「患者の希望」と答えた医師も746人いた2)。
かぜに抗菌薬を投与しても,細菌性二次感染を防ぐことはほとんどできず,実際には1人の二次性細菌性肺炎による入院を防ぐためには,かぜの患者1万2255人に処方しなければならない3)という報告がある。このように抗菌薬投与によるメリットがないだけでなく,副作用のリスクが高くなり,耐性菌の増加が懸念されることを啓発することが重要である。
また,ウイルス性か細菌性かの鑑別は必ずしも容易ではないが,「抗微生物薬適正使用の手引き」などを活用し,適切にかぜを診断するように心がけたい。初期にはかぜのように見える重症疾患も稀にあるため,どういう症状が悪くなったら,あるいは変わらなかったら再度受診するように伝えるなど,こまめにフォローアップできる体制が重要である。
インターネットを介した内閣官房による一般市民を対象としたアンケート調査(回答者13万5137人)によると,「かぜやインフルエンザに抗菌薬が効かない」と知っているのは全体の57%であった4)。逆に言えば,43%の一般市民はかぜやインフルエンザに抗菌薬が効くと思っているのである。かぜをひいて受診したときは患者教育の良い機会でもある。医療従事者だけでなく,一般市民とも耐性菌に対する問題意識を共有することで,より良い医療へつながるだろう。
患者が安心するためには,これからどのような経過をたどって良くなっていくのか,どうなったらまた受診すればよいのか,などについてしっかりと「説明処方」を行うことが重要である。この点は厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」5)を参考にされたい。
根拠文献:原文
1) Higashi T, et al:Intern Med. 2009;48(16):1369-75.
2) 日経グッデイ.
[http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100031/083100507/]
3) Meropol SB, et al:Ann Fam Med. 2013;11(2):165-72.
4) YAHOO!ニュース.
[https://news.yahoo.co.jp/polls/domestic/25663/result]
5) 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版.
[https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000166612.pdf]