変形性股関節症は,股関節に対する力学的過剰負荷による関節軟骨の変性や損傷から軟骨の摩耗,軟骨下骨の浸食や囊腫形成へと股関節の変形が徐々に進行し,疼痛や可動域制限,歩行能力低下などを生じる。わが国では,発育性股関節形成不全(発育性股関節脱臼,亜脱臼など)による股関節の接触圧増加と不安定性が原因で起こる二次性股関節症が大半を占めており,発症年齢が欧米よりも低い。一方,欧米では,関節形態に異常のない一次性股関節症が多いとされていたが,股関節の形成不全ではない形態異常による大腿骨と寛骨臼縁が衝突して関節の障害を起こす大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetabular impingement:FAI)という病態も,股関節症に関与している可能性が指摘されている。わが国でも,平均寿命の伸びと超高齢社会により,関節形態に異常のない一次性股関節症も増えている。
症状は,股関節から大腿部にかけての疼痛,可動域制限(拘縮),跛行である。米国リウマチ学会の診断基準では,股関節痛があり,かつ①赤血球沈降速度20mm/時未満,②大腿骨頭あるいは寛骨臼の骨棘形成,③関節裂隙の狭小化,の3つのうち2つを満たすものとなっている。
X線学的評価は,両股関節正面像(臥位)で通常行うが,初期の軽微な関節裂隙狭小化や亜脱臼は立位のほうが顕著となることがあり,立位で骨盤後傾変化などもとらえられるので,立位正面X線撮影は早期診断に有用である。また,股関節の関節裂隙狭小化は,大腿骨頭頂部より前方から始まることが多く,false profile viewも早期診断に有用である。
関節症の病期は重症度評価のひとつで,治療方針決定に重要である。関節裂隙の軽度狭小化や骨棘形成のみ認める初期,明らかな関節裂隙狭小化と囊腫形成を認める進行期,関節裂隙の消失する末期にわけられる。また,股関節形成不全の診断には,CE角が最も信頼性の高い指標で,20°未満が明らかな形成不全,20°以上25°未満が境界領域とされている。
発症初期は,鎮痛薬や安静,その後の運動療法などの保存治療が有効である。症状の緩和と軟骨変性摩耗の進行防止が治療の目標となる。股関節形成不全で関節症が初期までの青壮年患者では,3カ月以上症状が続く場合は寛骨臼回転骨切り術などの関節温存手術が勧められる。
進行期以降の保存治療は,手術回避または先延ばし目的の対症療法となり,根治的治療はないので,患者の機能やQOLの低下,社会活動性などを鑑みて,人工股関節全置換術が勧められる。
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