カレーを一皿食した数時間後、腹痛を伴うひどい下痢を、筆者は2013年の夏期に2回立て続けに経験した。
1回目は大学学食の牛煮込みカレー、2回目は自宅で誤ってカレー粉を入れ過ぎた作りたてのカレーであった。
そこで、カレーと下痢の関係について、医中誌のWeb版、PubMedおよびGoogleを用い、「カレー(curry)」、「下痢(diarrhea)」および「原因(cause)」の3語をキーワードとして文献調査を行った。
その結果、下痢の原因として、①ストレス・緊張、②暴飲暴食、③食あたり・食中毒、④食品、⑤生理による腹痛の随伴症状、⑥冷え、が考えられている1)ことがわかった。また、筆者は、カレーによる下痢の主原因として、種々の原因のうち、特に①食べ過ぎ、②食中毒、③香辛料が重要であると考えた。
カレーを食べ過ぎた場合、消化不良物やそこから発生したガスが腸の粘膜を刺激して、腸が異常収縮するため下痢が起こるとされている1)。しかし、筆者が経験したカレーによる下痢は、カレーを一皿しか食していないため、食べ過ぎが原因とは考えにくい。
カレーによる食中毒の原因菌としてウエルシュ菌が最も問題となる。
ウエルシュ菌2)は、グラム陽性桿菌で、芽胞を有する嫌気性菌である。本来土壌を住居としているが、ヒトや動物の腸管にも生息している。
三宅ら3)は、1999年4月14日から15日にかけて長岡技術科学大学福利施設内食堂でポークカレーを食べた者が下痢や腹痛等の食中毒症状を呈し、うち6名を診察した後、直ちに保健所に通報したことを報告している。4月19日には培養結果が出て、ウエルシュ菌による中毒と断定された。当初患者として81名が名乗り出たが、最終的に中毒者は69名と断定されている。
藤沢ら4)は、市販の国産カレールー60検体についてボツリヌス菌およびウエルシュ菌を含めたClostridium属菌の検出状況を平板培養法、パウチ法ならびに増菌培養法を用いて調査した。60検体中37検体よりClostridium属菌が分離された。用いた検出法による検出率は各々0%、5%、62%であった。ボツリヌス菌は検出されなかったが、7検体からエンテロトキシン非産生性のウエルシュ菌が分離されたとしている。
松田2)によれば、ウエルシュ菌による食中毒は、食品中で増殖した生菌が摂取され、ヒトの腸管内に侵入したウエルシュ菌が芽胞を形成し、増殖することにより産生したエンテロトキシンにより下痢の症状が起こる感染性食中毒である。このエンテロトキシンは熱に弱く、60℃・10分で胃酸でも失活するが、本菌が形成する芽胞は熱に強く、死滅させるためには100℃・1〜6時間ぐらい必要である2)5)。
もう少しわかりやすく述べる5)6)と、カレーや煮物を大量に調理する場合、熱に弱い細菌等は死んでしまうが、熱に強い芽胞の状態のウエルシュ菌が生き残る。室温に放置すると、鍋等の中が低酸素状態になり、ウエルシュ菌が増えやすい温度(20〜55℃)まで下がると、芽胞から通常の菌体に戻って急速に増え始める。翌日、温め直すときに、しっかり加熱しないとウエルシュ菌が生き残ってしまい、食べると腸内で菌が毒素を産生し、腹痛、下痢を起こす。
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