横江正道先生が腹部症候の書籍を上梓されました。消化器診療とタイトルに謳われているように、読者対象も消化器内科の先生向けと思いますが、総合内科と消化器のスペシャリストでいらっしゃる横江先生ならではの視点に満ちた良書と思います。
本書の構成は10章からなり、そのすべてがいわゆる腹部・消化器症状と言われる症状で構成されています。各章は見通しよくデザインされていて、各章のタイトルの患者さんが来院したら、というイントロから始まり、敵を知る(鑑別疾患を想起する)、そして病歴、フィジカル、検査のプランの説明が続きます。さらに各章が症例ベースであることも嬉しく、commonな症例、危険な症例、とそれぞれ展開されている構成は、それぞれの症候でcommonとdon’t miss diagnosisをそれぞれ網羅すべき、という横江先生から若手への重要なメッセージと思いました。
この構成で特徴的なのは、イントロの部分できちんと網羅的な鑑別疾患が提示されているところです。通常、腹痛や食欲不振、腹部膨満など鑑別疾患が広範囲にわたる症状で患者さんが来られたら、鑑別が多すぎるために思考がシャットダウンして検査に走ってしまう傾向がある若手医師も多いと思います(時間効率を考えオーダーを優先する場合ももちろんあると思いますが)。しかし、“とりあえず”検査の誘惑に甘んじることなく、きちんと考えてからプラン立案をしないと、検査結果が目前にあるのに見逃すということは往々にして起こりえます。そのための警鐘としても、本書の構成は素晴らしいと感じます。「あるある」「やばやば」「キレキレ」というテンポの良い臨床ポイントのアクセントもとても読みやすく、すっと頭に入ってきます。
消化器というと、内科の中でもインターベンション色の強い専門家集団というイメージを筆者は持っています。その消化器の先生方が、横江先生の手によって完成された本に収載される、総合内科の武器のひとつである診断力やジェネラル力の知恵を手に入れることで、鬼に金棒になるのではないでしょうか。類書もなく、その意味でも消化器内科の先生にお勧めですし、一方、腹部症状や消化器症状にフォーカスされた症候論の本として、医学生はもちろん、初期研修医、内科系後期研修医や若手スタッフにも大いに勉強になると思います。大推薦です!