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【識者の眼】「産婦健診の開始と問題点─精神科医を含めた体制を」久保隆彦

No.5010 (2020年05月02日発行) P.64

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-05-01

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前回(No.5004)、久保班の政策提言から「産婦健診」が開始されたことを紹介した。「産婦」は行政用語であり「産後まもない女性」を指す。厚生労働省母子保健医療対策には、「産後うつの予防や新生児への虐待予防等を図るため、産後2週間、産後1カ月など出産後間もない時期の産婦に対する健康診査(母体の身体的機能の回復、授乳状況および精神状態の把握等)に係る費用を助成することにより、産後の初期段階における母子に対する支援を強化し、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援体制を整備する」とある。産婦健診は国が2500円を2回、市町村が同額を負担し、産婦の金銭的負担はない。

産婦健診は産褥期におけるメンタルヘルスの評価とハイリスクの抽出に非常に有用な施策ではあるが、現状では以下の問題点がある。

①すべての妊産婦にとって必要な事業であるにも関わらず、手挙げ方式で実施され、初年度予算は7万人分、2018年度は22万人分、2019年度は34万人分と増加してはいるが、いまだ全産婦の約1/3と少ない、②メンタルヘルスハイリスク抽出ツールとしては、簡便ではあるが精度の低い「エジンバラ産後うつスコア(EPDS)」のみが推奨されているため、うつ以外の他の精神的問題、支援などを含めた総合的な評価が実際にはできていない、③ハイリスクが抽出されたとしても、そのハイリスク産婦に対応する体制(産科、小児科、精神科、保健師)が存在する市町村がきわめて少ない、④特に、精神疾患合併妊産褥婦に対応できる周産期精神科医がわが国ではきわめて少ない。さらに、希死念慮のある症例を受け入れる精神科緊急搬送体制がいまだ整備されていない。

上記のように種々の問題はあるものの、わが国で産後の母親に初めて行われた公的補助である。産婦健診を実施する市町村は十分な議論を行い、精神科医を含めたしっかりとした体制を整備し、わが国の母子を守って欲しい。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

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