この10年間の下肢閉塞性動脈硬化症(arterio-sclerosis obliterans:ASO)領域の特徴を一言でまとめると、グローバル化とガイドラインの整備といえる。高齢者や糖尿病患者などとともに増加するASO患者の生命予後と下肢機能をいかに改善するかが追求されてきた。さらに、ASO治療の基盤である血行再建手段としても、外科的バイパス術に加え、低侵襲治療である血管内治療(endovascular treatment:EVT)が発展した。ただし、EVTはいまだ外科的バイパス術に代わるものではなく、個々の患者に適した治療手段を選択するためには、各手技の得失を熟知する必要がある。しかし、下肢血行再建手技を網羅的にまとめた教科書はこれまでなかった。
今回出版された「下肢閉塞性動脈硬化症 血行再建ガイド」は、33人に及ぶ末梢血管疾患のエキスパートが執筆陣となり、外科的バイパス術からEVTに至る多岐にわたる血行再建手技が、調和のとれた形で的確にまとめられている。本書の企画・編集を行った古森公浩先生のご尽力に敬意を表したい。わが国の血管診療を指導的立場で推進している先生の、熱い思いが具現化された書である。
本書を手に取ってみると、ずっしり重い。内容の充実とともにページ数が増加するのが、教科書の悲しい宿命であるが、この本にはその難題を打ち破るべく電子版が用意されている。PCはもとより、タブレット端末やスマートフォンからも、本文、図表、手技動画が見られる。重要な参考文献もリストアップされており、さらに理解を深めることもできる。机の上で広げてもよし、電車の中でスマートフォンで見てもよし、目の前の患者をどのように血行再建するかという問いかけに、十二分に答えてくれる教科書である。