自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)は,1995年にYoshidaらが提唱した疾患概念で,膵腫大と膵管狭細像を特徴とする。日本では,2002年に最初の診断基準が制定され,2006年の改訂を経て,2010年に制定された国際コンセンサス診断基準(international consensus diagnostic criteria:ICDC)1)をもとに,日本の実情に合わせた日本膵臓学会「自己免疫性膵炎臨床診断基準2011」が制定された。さらに,2018年の改訂を経て,現行の診断基準(JPS 2018)2)が用いられている。
AIPは,膵腫大,膵管狭細,血清IgG4値,膵外病変,病理所見,ステロイドによる治療効果判定の組み合わせで診断される。びまん性膵腫大症例の診断は比較的容易だが,限局性の場合には膵癌との鑑別が重要である。ICDCやJPS2018では,限局性膵腫大のAIPの診断には膵管狭細像を証明する必要がある。ICDCでは,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)で採取された組織による病理学的診断は,検体量が不十分であることから診断できないとされているが1),JPS2018では,EUS-FNAで採取された組織を用いてもAIP診断が可能であることが記載された2)。悪性疾患との鑑別も含め,病理学的診断を試みることが重要である。
AIPは自然軽快することがあること,また,安易なステロイド投与を避ける目的から,治療の適応は慎重に判断する必要がある。「自己免疫性膵炎診療ガイドライン2013」におけるAIPのステロイド治療の適応は,「AIP患者のうち,胆管狭窄による閉塞性黄疸例,腹痛・背部痛を有する例,膵外病変合併例などがステロイド治療の適応となる」と記載されている3)。近年,IgG4に関連した疾患群を総称し,IgG4関連疾患(IgG4 related disease:IgG4-RD)としてとりまとめられ,AIPやその膵外病変もIgG4-RDの部分症と考えられている。膵外病変は多彩で,軽度の涙腺・唾液腺炎は,治療の適応とはならないが,明らかな水腎症を呈する後腹膜線維症は腎後性腎不全をきたす可能性から,ステロイド治療が必要となる。症状や黄疸の有無,各臓器障害をきたす可能性を見きわめ,治療の適応を判断する。
膵腫大,膵外病変の発生やステロイドの副作用に十分に注意しながら経過を観察する。膵腫大や膵管狭窄,IgG4関連硬化性胆管炎の再燃を注意深く経過観察するために血液検査を必ず行い,膵酵素の上昇や肝機能障害にも留意する。さらに,間質性腎炎や後腹膜線維症など,腎臓に関連したIgG4-RDの発生にも注意する必要がある。適宜,腹部超音波検査や腹部CT,腹部MRI,超音波内視鏡などの画像検査を行うことが,早期に再燃を発見することに寄与する。
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