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COVID-19と血栓症の関係[J-CLEAR通信(114)]

No.5019 (2020年07月04日発行) P.33

後藤信哉 (東海大学医学部内科学系循環器内科学教授)

登録日: 2020-06-25

最終更新日: 2020-06-25

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新型コロナウイルスの感染拡大により医療現場は激変している。「新型」であるため,ウイルス感染の続発症状の詳細は理解されていない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の細胞内浸潤受容体であるangiotensin converting enzyme(ACE)-2は血管内皮細胞にも発現している1)。血管内皮細胞がウイルス感染により機能障害されれば血栓ができる。微小血管の血栓は無症候かも知れない。現在までの報告は症候を呈する大きな血栓が稀でないことを示している。

COVID-19は人類が直面する危機である。通常,科学雑誌への論文の掲載には慎重な査読プロセスがある。各種医学雑誌はCOVID-19に関しては速報性を重視して対応している。査読を受けて公表された論文は「正しい」と理解される。COVID-19関係では速報性重視の結果として後日修正が必要な論文が多くなるかも知れない。全く「未知」よりは公開情報がある方がよいとの議論と,間違った情報なら公表しない方がよいとの議論がある。筆者が編集に関与しているthe American Heart Association(AHA)のCirculation誌でもeditor meetingにて,どの論文が速報に値するか慎重に吟味している。J-CLEAR通信でも「正しい」記事の掲載が一義的に重要である。本稿では執筆時点(6月23日)においてCOVID-19血栓症(thrombosis)に関する公開情報に基づいた論考をする。

COVID-19血栓症はどのくらい起こるか?

google scholarにCOVID-19 thrombosisと入力すると多数の論文がヒットする。筆者が試みた時に引用数トップの論文は,ICUに重症肺炎として入院したCOVID-19患者184例の血栓イベント発症を記録したThrombosis Research誌の論文であった2)。静脈血栓症のリスクの高い世界では,ICU入院時には低分子ヘパリンによる血栓予防が常識的に施行されている。それでも,約30%の症例が症候性の血栓症を発症したと報告された。血栓イベントの大半は静脈血栓症であったが,動脈血栓症も10%程度混在した。血栓症の予測因子は年齢と,経過中のa-PTT,PTの延長であった。通常a-PTT,PTが延長すれば血栓リスクは下がる。COVID-19血栓症ではa-PTT,PT延長が発症の契機となる特殊な血栓である。同グループは観察期間を7~14日に延長し,41例(22%)が死亡したと報告した。75例の血栓イベントのうち35例は肺血栓塞栓症であった。抗凝固治療でも死亡率を低下させられなかった3)

国際血栓止血学会のJ Thromb Heamost誌にも,75例のICU入院例を含む198例のCOVID-19入院例の単一施設の観察研究結果が報告されている(https: //doi.org/10.1111/jth.14888)4)。約7日の観察期間内に,低分子ヘパリンなどの通常の血栓予防下でも39例が静脈血栓症と診断された。ICU入院の静脈血栓が多いとされているので,肺炎の重症化と同時に血栓リスクが増加することを示唆している。google scholarの検索ワードをCOVID-19 thrombotic complicationとすると4番目にイタリア・ミラノからの論文がヒットする。388例のCOVID-19入院例の観察研究である。61例がICUに入院した症例,327例は一般病棟に入院した症例であった。一般病棟の20/327例,ICUの8/61例が最低1度は血栓イベントを経験した。静脈血栓症が多いが一般病棟の6/327例,ICUの3/61例は虚血性脳卒中であった。個別症例のd-dimerの計測値が掲載されている。d- dimerは高いが,著しく高い症例とそれほど高くない症例が混在していた5)。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)にてICUに入院した症例のうち,150例のCOVID-19の11.7%が血栓イベントを惹起したのに対して,非COVID-19の血栓イベントは2.1%であったとの報告もある6)

公開された論文は,ICUが必要となるCOVID-19の重症例では症候性血栓イベントが多いとしている。血栓イベントの多いことに驚いた著者たちが報告しているので選択バイアスはあるかも知れない。世界のCOVID-19の重症例の中には血栓イベントの多いグループがあり,その血栓イベントの多くは静脈血栓であった。

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