前庭反射が病的状態であるときは,健耳側小脳が活動して同側神経核を抑制して左右差を減少させます。これを中枢性代償と言います。
前庭反射が病的な状態とは,左右の半規管の活動に差があるということと解釈しています。たとえば右側の活動性が過敏で左側は健常である場合,上記のごとく左側(健常側)を抑制すると,左右差はかえって広がるのではないでしょうか。(高知県 F)
【中枢性代償が起こる病態では,患側の機能は必ず低下する】
ご指摘のように中枢性代償は左右差を減少させるように働くものですが,一般に活動性の左右差が数日以上続く場合に限られます。おそらく一時的な変化に対しすぐに代償が働いてしまうと,患側の異常が回復したときに再び左右差が生じてしまうからと推察します。
私の知る限り,中枢性代償が起こる病態では必ず患側の機能は上昇(過敏化)せず,低下します。代表疾患は前庭神経炎です。前庭神経炎では強いめまいが数日~1週間ほど続き,患側の前庭機能はそれ以上の期間低下し続けます。前庭神経炎では患側の機能が低下しているので,中枢性代償は健側の神経核を抑制して左右差を減少するように働きます。一方,患側が過敏になる病態で有名なのはメニエール病で,その発作時間はおおむね10分から12時間であり,中枢性代償が働く前に左右差は消失します。
ちなみに中枢性代償が適切に働けば体平衡に有利に働きますが,代償が効きすぎる過代償が起こると,両側の前庭機能が高度に低下し,前庭動眼反射がほとんど起こらないために歩くたびに景色が動くjumbling現象が生じます。一方,代償が効かない脱代償では,左右差が大きくなり,強い病的眼振が現れます1)。
【文献】
1) 新藤 晋, 他:Equilibrium Res. 2017;76(2):57-62.
【回答者】
新藤 晋 埼玉医科大学耳鼻咽喉科講師