E型肝炎ウイルス(HEV)の急性感染により発症する急性肝障害である。主要なHEV遺伝子型は1~4型であり,日本国内では人獣共通感染を背景に,3型または4型感染により発症する。熱帯,亜熱帯の流行地域での発症は1,2型による。
急性肝障害の初診時問診では,HAV,HCV,HBVなどの急性感染経路のほかに,HEVの人獣共通感染様式を念頭に,肝障害発症2~8週前にブタ,イノシシの肉(肝,大腸など内臓肉を含む)を十分加熱せずに摂取した可能性について問診する。また,同期間におけるHEV高浸淫地域への渡航歴も聴取する。
急性肝障害の初期血清に対する抗HEV IgA(ELISA)診断が一般的である。急性肝障害では抗HAV IgM,抗HBc IgMなど,他の急性肝障害診断指標とともに提出する。なお,AST,ALTが上昇中の病初期には,血中抗HEV IgM,IgAが陰性を呈し,PCRによるHEV RNA同定でのみ診断可能な症例が存在する。病初期検査で成因が不明な場合,抗HEV IgAの再検査も検討する。
プロトロンビン(PT)時間の異常延長(PT活性40%以下またはPT-INR 1.5以上)を呈する重症例を急性肝不全とする。E型急性肝炎の重症化には,遺伝子型4のHEV感染が強く関与する1)ため,HEV遺伝子型を確認することはきわめて重要である。HEV感染以前に,B型・C型慢性肝炎やアルコール性肝障害,非アルコール性脂肪性肝疾患などに既に罹患している症例では,E型急性肝炎の発症を契機に重症化し,acute on chronic liver failureへ進行するリスクが存在する。
急性感染時には肝外病変も発症する。急性腎障害,多様な神経障害を併発する症例では,専門科への紹介など,慎重な対応が求められる。
臓器移植後などで持続的に免疫抑制療法を受ける症例では,急性感染したHEVが免疫応答により排除されず,慢性肝炎を呈し,中には数年のうちに肝硬変へ進行する例も報告されている2)。日本での実態と治療については,調査研究が進行中である3)。診断は血中HEV RNAの同定(PCR)による。
E型急性肝炎におけるほとんどの症例は保存的治療で寛解するが,全体の1~5%と推測される重症化症例では,内科的集中治療や肝移植を検討する。PT活性60%以下の症例は,今後重症化する危険性を考慮し,急性肝不全の治療経験を有する施設へ搬送する。一方,E型慢性肝炎については,欧米ではリバビリン投与が一般的であるが,日本においては治療法は定まっていない。
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