1 最新情報
(1)ロタウイルスワクチンの定期接種化
ロタウイルスワクチンは2020年10月1日から定期接種となることが決定した。
接種対象は2020年8月1日以降に生まれた者で,経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン〔ロタリックス®(RV1)〕,5価経口弱毒生ロタウイルスワクチン〔ロタテック(RV5)〕ともに使用が可能である。
投与期間はRV1とRV5で異なるが,どちらも基本的に初回接種は生後14週6日までには完了させる。
(2)ワクチンの接種間隔の変更
2020年10月1日以降,「注射の生ワクチン同士の接種間隔を27日以上あける」以外のワクチンの接種間隔規定を撤廃することになった。注射の生ワクチン同士以外は,いかなる間隔で接種してもワクチンの効果に影響はない。また,同じワクチンの接種間隔に関して変更はない。
2 課題
(1)vaccine hesitancy
vaccine hesitancyは,vaccine preventable disease(VPD)の流行の大きな要因として問題になっている。
世界保健機関(WHO)はvaccine hesitancyを「ワクチン接種の機会が提供されているにもかかわらず,接種を先延ばしにしたり,拒否したりすること」と定義している。さらに,WHOは“Ten threats to global health in 2019”のひとつに,vaccine hesitancyを挙げている。
2019年に世界的に麻しんが流行したが,vaccine hesitancyはこの要因のひとつと考えられている。
(2)vaccine preventable disease(VPD)の流行とキャッチアップ接種
わが国の麻しん,風しんの流行は成人にキャッチアップ接種が行われてこなかったことが要因である。対策として,成人に対するキャッチアップ接種が重要である。
わが国では2015年に麻しん排除が認定されたが,2016年以降も輸入麻しん例を中心に毎年100例以上が報告されている。特に2019年は744例が報告され,2009年以降で最も多かった。20~30歳代の報告例が多く,ワクチン接種歴なしおよび接種歴不明が65%,1回接種が22%を占めた。
風しんは2012~2013年に大規模な流行があり,約1万7000例が報告された。さらに,2018~2019年にも流行があり,約5200例が報告されている。いずれも成人男性が流行の中心で,この年代には多くの感受性者が存在している。
(3)わが国の有害事象評価の問題点
わが国の予防接種後の有害事象の評価は,自発報告〔passive surveillance(受動的サーベイランス)〕のみで行われ,このデータだけからワクチン推奨変更の判断が行われている。しかし,ワクチンの信頼性を維持していくためにはactive surveillance(能動的サーベイランス)が必要である。
passive surveillanceは,報告された有害事象がワクチンの安全性の問題(signal)かを検出するシステムである。しかし,非接種群のデータがないため,接種群と非接種群における有害事象の発生頻度の差を比較できず,有害事象が副反応なのか判断できない。したがって,自発報告のデータだけでワクチンの推奨を変更すると,誤った判断に至ることがある。
(4)わが国の予防接種施策決定システム
2014年につくられた「予防接種に関する基本的な計画」で,「我が国の予防接種施策の基本的な理念は『予防接種・ワクチンで防げる疾病は予防すること』」とされている。また,2019年に施行された成育基本法では,「居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切な成育医療等の提供を受けることができるように推進されなければならないこと」が基本理念として掲げられている。
しかし,現在でも多くの人がVPDに感染し合併症が起きている状況や,さらに任意接種の公費助成が地方自治体ごとに行われ,接種率に地域差がある状況は,これらの理念が達成されたとは言いがたい。
今後,新型コロナウイルスワクチンなど新しいワクチンの導入時にも,早期の対応が必要である。そのためには,科学的データに基づいた予防接種施策を決定できる「本当のNational Immunization Technical Advisory Groups」が必要である。