「できれば自宅で最期を迎えたい」――在宅診療所に訪問診療を依頼してくる多くの患者さんとそのご家族の希望です。しかし,政府が行っている意識調査の結果1)を見ると,同じように思っている方はそう多くはないようです。「自宅で最期を迎えたい人」は49.5%。他の調査を見ても,概ね半数前後といったところでしょうか。
「どこで最期を迎えたいですか?」。不確定要素が多く,答えるための判断材料が乏しいこの質問は不親切だと,筆者は常々思っています。「そのとき」に自分がどんな状態になっているか,あるいは周囲がどんな状況になっているかがわからないので答えようがありません。
さらに踏み込んだ調査2)を見つけました。「そのとき」にどうなっているかをケース別にして,最期を迎えたい場所を質問したものです。要約すると,病気や障害にかかわらず痛みや呼吸苦などの苦痛症状があれば「医療機関」を希望し,可動性や日常生活動作が低下して家族に多大な迷惑がかかるようであれば「介護施設」を希望しています。当然とも思われる調査結果でした。これから次のような仮説が導き出されます。どのような病気や障害があっても,苦痛を取り除く安心な医療と家族の負担を減らす十分な介護があれば,多くの人が自宅での最期を望むのではないか,ということです。
「『そのとき』に心身の苦痛や家族の介護負担が少ないとしたら,どこで最期を迎えたいですか?」。この条件付きの質問であれば,多くの人が迷わず「自宅」と答えるはずです。
「そのひとらしく生きる,老いる,そして終える」ことをサポートする在宅ケアをめざして,宮城県大崎市に在宅診療所を新設したのは2016年11月のことです。これまでに延べ1000人を超える患者さんを受け入れ,常時300人の在宅診療を行うまでに成長しました。ひと月に約20件の新規患者さんの依頼を受けて,平均で10人/月の死亡があります。
ここで特に強調したいことは,そのほとんどを自宅でお看取りしていることです。自宅看取り率は約87%(2019年度)。「なにがなんでも在宅で」という在宅至上主義を貫いているわけではありません。患者さんやご家族を含めたチームケアを追求することで,結果的に多くの患者さんが自宅で最期を迎えています。本特集では,そのカラクリについて自分なりに分析したことをご紹介したいと思います。