人口10万人当たり6.3~37.3人に発生し,近年は増加傾向にあると言われる。受傷好発年齢は30~40歳代で,50歳以上の年齢層にもう1つ小さなピークがある。若年層ではスポーツによる受傷が多く,種目別にはバドミントン,バレーボール,サッカー,テニスなどの球技およびラケット使用競技での発生頻度が高い。高齢層ではスポーツ以外の日常活動中の受傷が多い。腱の退行性変化の存在を示唆するアキレス腱の肥厚や,フルオロキノロン系抗菌薬やシプロフロキサシン等の抗菌薬の内服は,アキレス腱断裂の危険因子とされる。
アキレス腱断裂は,病歴と理学所見により比較的容易に診断できる。患者は受傷時に下腿後面に断裂音を自覚したり,棒で殴られたり誰かに蹴られたように感じたと訴えることが多い。後脛骨筋,足底筋,長母趾・長趾屈筋により,足関節の底屈や歩行は可能であるものの爪先立ちは不能となる。 理学所見では,足関節背屈角度は増大し,足関節底屈筋力は低下する。断裂部には陥凹を触れ,Simmonds-Thompson’s squeeze testが陽性となる。問診と理学所見で確定診断がつかない場合には,超音波検査やMRIなどの画像診断が有用となる。特に超音波検査は,断裂部の位置や性状を正確に把握できるだけでなく,治癒過程を経時的に追うことができる利点を有する。
治療のゴールは,アキレス腱の生理学的な長さと緊張を回復させることにある。治療法は,大きく保存療法と手術療法にわけられる。
6~8週間の外固定の後に理学療法を開始する従来法では,10%以上に再断裂が発生するが,近年,より短期間の外固定の後に足関節の可動訓練や荷重歩行訓練を徐々に開始する機能的リハビリテーション(functional rehabilitation)が導入されてからは再断裂の発生率は3~5%と,手術療法(3.5%)とほぼ同等となった。一方,スポーツ活動への復帰時期と底屈筋力の回復は,手術療法と比較して有意に遅いと報告されている。
一般に経皮的縫合術,小皮切からの縫合術,開放手術が行われる。経皮的縫合術では腓腹神経障害を引き起こす可能性が高いとされるが,術前に超音波検査下に腓腹神経の走行を皮膚上にマーキングすることで予防できる。小皮切からの縫合術では,小侵襲下に断端を確実に圧着縫合できる。開放手術では,腱線維を互いに交差させて縫合することで,より早期の回復を期待できる。いずれの術式も,保存療法よりもスポーツ活動に早期に復帰できる利点がある一方で,手術に伴う合併症の発生率は5~10%と報告されている。
以上から,スポーツ活動を積極的に行わない患者に対しては機能的リハビリテーションによる保存療法を,スポーツ活動を積極的に行っている患者に対しては手術療法を行うことを基本方針としている。
残り1,077文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する