膵頭十二指腸切除は,多様な疾患(遠位側胆管癌,十二指腸乳頭部癌,膵頭部癌,慢性膵炎,など)に対して行われます。現在,間膜アプローチ,左側アプローチ,結腸上前方アプローチなど多くの手法が提唱されています。右側に引き出して処理する古典的な方法の問題点と,上記方法の利点をご教示下さい。
がん研究会有明病院・髙橋 祐先生にご回答をお願いします。
【質問者】
江畑智希 名古屋大学大学院腫瘍外科学准教授
【artery-first approachは術中出血量を減らし,根治度を上げる】
膵頭十二指腸切除は腹部高難度手術の代表で,適応となる対象疾患は膵囊胞性病変などの良悪性境界疾患から十二指腸癌,遠位側胆管癌,浸潤性膵管癌まで多岐にわたります。そのため,術中のリンパ節郭清,動脈周囲神経叢郭清などをどの程度行うかは,症例ごとに調節する必要があります。特に膵頭部癌は,その解剖学的特性より容易に周囲血管に近接・浸潤するため,外科的切除端の確保には門脈合併切除や上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)周囲神経叢の切除を必要とする症例が多くあります。
膵頭十二指腸切除の教科書的な手順は,胃切離,空腸切離を先行し,切除空腸端を右側に引き出しながら門脈周囲を剝離後,SMA周囲に到達し膵頭神経叢第Ⅰ部,第Ⅱ部を切離し標本を摘出するという方法でした(従来法)。この方法では,SMA周囲の浸潤程度は手術の最終段階で把握することになります。また,切除する膵頭部の流入血管である下膵十二指腸動脈(inferior pancreaticoduodenal artery:IPDA)が最後に処理されることになり,結果的に切除側のうっ血からの術中出血量が増えてしまう欠点がありました。
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