足根管とは,屈筋支帯と脛骨・踵骨に囲まれたスペースで,ここに後脛骨筋腱,長趾屈筋腱,長母趾屈筋腱,脛骨動静脈が走行している。この部位での絞扼性神経障害が足根管症候群である。足関節外傷,長い時間の歩行,妊娠などでも生じるが,ガングリオン,距踵骨癒合症などのスペース占有病変での圧迫によるものが多い。特に日本では,距踵骨癒合症が多いと言われている1)。足底,足趾の痺れ,痛みを訴えて来院する。他の絞扼性神経障害と比べ,痛みの程度が強い印象を持つ。特にガングリオンが神経内に発生した神経ガングリオンの場合は,激烈な痛みを生じるのが特徴である2)。
足根管症候群を理解するのに欠かせない要点は,足根管の解剖である。足根管を通る脛骨神経は,トンネル内で内側足底神経・外側足底神経・内側踵骨神経に分枝する。内側足底神経は足底部の内側から母趾,外側足底神経は足底外側,内側踵骨神経は踵部内側から足底にかけての感覚を支配している。内側踵骨神経は,足根管より近位で分枝する場合もある3)。内側足底神経支配の筋は,母趾外転筋,短母趾屈筋,短趾屈筋,第一虫様筋で,それ以外が外側足底神経支配である。患者は足根管,足底の痛みを訴え来院する場合が多い。筋肉萎縮もみられる場合がある。特定の枝が圧迫された場合は,その支配領域の知覚障害がみられるので,圧迫を受けている枝を推測できる。
通常,足の痺れを訴えて来院した場合,椎間板ヘルニアなどの腰椎疾患を念頭に置き診断を進める医師が多い印象を持つ。足根管症候群でも稀に症状が下腿にまで及ぶこともあるため,さらに紛らわしい。足根管症候群では通常,痛み,痺れ,灼熱感が足底,足趾に限局されているので,足根管症候群が想起されていれば診断への道は近い。丁寧な足部の診察が重要である。足根管部の腫脹・圧痛・腫瘤の有無を丁寧に調べる。ガングリオンなどの腫瘤性病変の場合は弾性硬に,足根骨癒合症の場合は骨様腫瘤を触知する。また,圧迫部にTinel様徴候がみられる。
外来で超音波検査が可能な場合は,足根管部のガングリオンなどの腫瘤性病変,腱鞘の肥厚,骨の突出の有無を調べる。さらに単純X線,CTで足根管症候群の原因となりうる骨の異常を調べる。距踵骨癒合症では,側面像で距骨下関節の後方の不整,嘴状の突出をみる。MRIではガングリオンの場合は,T1強調像で低信号,T2強調像で高信号,ガドリニウムで辺縁が造影される。神経鞘腫などの充実性腫瘍では,内部も造影されるため鑑別に有用である。また,神経と腫瘍との位置関係も確認できる。
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