内耳炎とは,文字通り内耳に生じた炎症のことであり,ウイルスや細菌のほか,梅毒,自己免疫疾患によるものなど,原因は多岐にわたる。治療方針は原因だけでなく,炎症の進展経路まで考慮する必要がある。
炎症の三主徴である発熱,痛み,腫脹に加え,内耳に存在する神経が障害されることによる感音難聴,めまい,顔面神経麻痺,味覚障害などがあれば内耳炎を強く疑う。ただし,乳幼児や髄膜炎により意識障害を併発した場合には,これらの症状を訴えないことがあるため,注意が必要である。
内耳炎における治療目標は,内耳障害の治癒である。ただし,内耳炎の原因や進展経路によって機能予後は大きく異なるため,それぞれの病態に応じて治療方針を決定する必要がある。
ムコイド型肺炎球菌による急性中耳炎は内耳障害をきたしやすく,しばしば難治である。急性中耳炎による内耳障害を疑ったら速やかに鼓膜切開,ドレナージを行いつつ起炎菌の検索を行う。ムコイド型肺炎球菌はセフェム系抗菌薬が効きにくく,ペニシリン系やカルバペネム系抗菌薬による治療を行う。また,慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎など,慢性に経過する疾患でも内耳炎が生じうるので,保存治療に抵抗する症例では手術を行う。
一手目 :鼓膜切開術。ペントシリン®注(ピペラシリン)2g/日,ソル・コーテフ®注(ヒドロコルチゾンコハク酸)300 mg/日をそれぞれ点滴静注併用
二手目 :〈一手目で効果が乏しい場合,処方変更〉鼓膜チューブ留置術。カルベニン®注(パニペネム/ベタミプロン)2g/日,デカドロン®注(デキサメタゾン)16mg/日をそれぞれ点滴静注併用
細菌性髄膜炎に伴う感音難聴は一般に予後が不良であり,後天性聾の原因として最も多いとされる。起炎菌は年齢によってその傾向が異なるため,年齢に応じて抗菌薬を選択する必要がある1)。副腎皮質ステロイドは感音難聴の予防だけでなく,脳浮腫や過剰な免疫反応による組織障害を予防する効果があることから,起炎菌によらず投与が推奨されている。
また,髄膜炎で両側聾となっても,人工内耳手術により聴覚の再獲得が可能である。ただし,発症後早期に蝸牛の骨化(特に肺炎球菌)が生じ,手術が困難になることがある。髄膜炎で失聴した場合は,速やかに人工内耳手術が可能な施設への受診を考慮する。
一手目 :〈小児の場合。インフルエンザ桿菌と肺炎球菌の頻度が高いことから〉カルベニン®注(パニペネム/ベタミプロン)100mg/kg/日(3回に分割),デカドロン®注(デキサメタゾン)0.2mg/kg/日をそれぞれ点滴静注併用
二手目 :〈成人の場合。肺炎球菌やMRSAを含むブドウ球菌の可能性を考え〉メロペン®注(メロペネム)6g/日(3回に分割),塩酸バンコマイシン®注(バンコマイシン)2g/日(2~4回に分割),デカドロン®注(デキサメタゾン)16mg/日をそれぞれ点滴静注併用
残り1,383文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する