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【識者の眼】「嚥下障害診療ガイドライン2024年版について」唐帆健浩

唐帆健浩 (じんだい耳鼻咽喉科院長)

登録日: 2025-01-17

最終更新日: 2025-01-16

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日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会から、嚥下障害診療ガイドラインの最新版が2024年秋に発刊された。2018年版発刊から6年ぶりの改訂であり、最近の嚥下障害診療にまつわる情報がアップデートされている。ガイドライン作成委員は、2018年版まで耳鼻咽喉科医のみであったが、集学的アプローチが行われる嚥下障害診療の実情にマッチしたものとするため、2024年版からは脳神経内科医やリハビリテーション科医、歯科医、言語聴覚士が加わり、より実用性が高いものとなった。

2024年版のガイドラインの大きな改訂点として、総説の充実とクリニカルクエスチョンの大幅な変更が挙げられる。また近年、特に高齢者の嚥下障害診療の現場で話題となってきたサルコペニアとオーラルフレイルについては、その定義および嚥下機能との関連性についても述べられている。本稿では、改訂点のポイントを紹介する。

まず総説の章では、高次脳機能の評価の項で、経口摂取の際に問題となりうる失行や失認、精神症状について注意を払うように提案されている。口腔機能の評価についてはかなり詳しく、口腔衛生や口腔乾燥、咬合力や舌口唇運動機能、舌圧や咀嚼機能などの評価方法について具体的に解説されている。また、嚥下内視鏡検査の評価方法や重要ポイントのみならず、よく用いられるスコア評価法(いわゆる兵頭スコア)についても詳述されている。さらに、最近実施する施設も増えてきた高解像度嚥下圧検査の活用法が示され、嚥下機能の簡易検査法として欧州では一般的に行われているGugging Swallowing Screenの評価方法やその結果に応じて提案できる食形態の表も掲載された。

外科的治療の項では誤嚥防止手術として、喉頭気管分離術あるいは気管食道吻合術にボイスプロテーゼ挿入を併施することで喉頭を音源とする音声機能を維持できる術式(通称TED with TEP手術)や、従来の喉頭全摘術よりも切除範囲が少なくて低侵襲とされる喉頭中央部分切除術も追加されている。

クリニカルクエスチョンの章では、サルコペニアの嚥下障害において単に栄養管理を行うだけではなく、嚥下関連筋の訓練を含むリハビリテーションと栄養管理の両者を実施することが重要であることがエビデンスとともに示されている。また、嚥下障害患者のリハビリテーションの際に採用されることが多い神経筋電気刺激療法の有用性が検証され、従来型の嚥下訓練と組み合わせることでより高い相乗効果が得られるというエビデンスが示されている。

初版と第2版は嚥下障害診療に取り組む耳鼻咽喉科医を対象としてつくられ、2018年版からは嚥下障害にかかわる様々な職種の医療者へ対象が拡大された。しかし、2024年の改訂では、多職種の医療者が協働して嚥下専門外来を担当し集学的アプローチを行う場合にも大いに参考になるガイドラインとなっている。作成委員の一員として、嚥下障害診療の現場で広く利用されることを願っている。

唐帆健浩(じんだい耳鼻咽喉科院長)[嚥下障害][ガイドライン]

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