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副鼻腔真菌症[私の治療]

No.5255 (2025年01月11日発行) P.51

吉川 衛 (東邦大学医療センター大橋病院耳鼻咽喉科教授)

登録日: 2025-01-09

最終更新日: 2025-01-07

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  • 副鼻腔真菌症は,重篤な症状を呈する浸潤性と限局した病変を呈する非浸潤性に大別される。さらに浸潤性については急性および慢性,非浸潤性については慢性とアレルギー性の4つの病態に分類されている1)。急性および慢性浸潤性は免疫が低下した患者において日和見感染として発症することが多く,両者とも真菌の組織浸潤を伴う。慢性非浸潤性は,真菌の組織浸潤は伴わず,真菌塊を形成することが特徴で,全身の免疫状態との直接の関連はない。アレルギー性はallergic fungal rhinosinusitis(AFRS)と言われ,鼻副鼻腔で非浸潤性に増殖した真菌に対する2型免疫応答の関与が指摘されている。

    ▶診断のポイント

    副鼻腔真菌症ではCTによる画像診断が重要であり,石灰化や濃淡像を伴う副鼻腔内の軟部濃度陰影に加えて,骨破壊や周辺臓器への浸潤所見を確認する。浸潤性の場合,β-d-グルカンなどの血清診断も有用とされているが,確定診断には培養検査や病理検査が必要である。また,AFRSでは真菌に対するアレルギーが診断のポイントとなる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    急性および慢性浸潤性の治療は,原則として「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014」2)に基づいて行う。まずは手術による病巣の除去を行った上で抗真菌薬の全身投与を行うべきだが,実際には診断された時点で手術による病変の全摘出は困難であることが多く,特に病変が眼窩尖端から海綿静脈洞に浸潤してしまうと不可能となる。さらに,免疫不全による易感染性患者のため,全身状態が不良で薬物療法を十分に行えないことも多い。

    薬物療法としては,現在の第一選択薬はアゾール系抗真菌薬のボリコナゾールである。また,キャンディン系抗真菌薬のミカファンギンは,スペクトラムは広くないが,副作用が少なく高用量でも安全に使用できる。カンジダ属には殺真菌的に作用するが,アスペルギルス属には静真菌的に作用することが知られている。そのため,単剤での使用ではアスペルギルス属に対して十分な効果が期待できないが,イトラコナゾールやボリコナゾールとの併用による有効性について経験的なレベルで報告されている。また,ムーコル症の場合は,アムホテリシンBリポソーム製剤が第一選択となる。なお,抗真菌薬による治療の終了時期の判断については確立されていないため,治療を終了したあとも厳重な経過観察が必要である。

    慢性非浸潤性の場合は,真菌が粘膜内に浸潤していないので抗真菌薬の全身投与は不要である。手術により病巣である副鼻腔を開放して,真菌塊を除去した上で病的な粘膜上皮のみを切除する治療が第一選択となる。

    AFRSの場合は,内科的治療としてステロイド(全身,局所),抗真菌薬(全身,局所)の投与やアレルゲン免疫療法だけでなく,抗ロイコトリエン薬や抗IgE抗体製剤の効果なども報告されている。しかし,治療の第一選択は手術であり,副鼻腔を単洞化して換気や排泄を促すとともに,真菌を含む好酸球性ムチンを除去する。術後のステロイドの全身投与も有効とされているが,有害事象のリスクもあることから,ステロイドの投与量や投与期間について一致した見解はない。

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