溶血連鎖(レンサ)球菌とは,グラム陽性球菌で連鎖状に増殖し,血液寒天培地でβ溶血を示す菌の総称である。多くの合併症があるA群連鎖球菌(group A streptococcus:GAS)と,新生児・乳児早期に重症化する可能性があるB群連鎖球菌(group B streptococcus:GBS)が小児科では重要である。
GAS咽頭炎の罹患は2歳頃から漸増し5歳前後が最も多く,その後減少する。しかし成人感染も稀ではなく,家庭内感染も多い。また,診断・治療が遅れ,扁桃周囲膿瘍などを形成している成人例も散見される。季節性があり,冬と初夏に流行のピークがある。
GBS感染症には生後1週間以内に発症する早発型と,生後8日~3カ月で発症する遅発型がある。妊娠35~37週で,産科医による母体スクリーニングが行われる。切迫早産などの場合,スクリーニングから時間が経過している可能性もあり,注意を要する。GBS保菌妊婦,早産,破水後18時間以上経過した症例や,発熱を認める場合,前児のGBS感染既往などがある場合には,分娩4時間以上前から抗菌薬投与が行われる。一連の経過を把握するには,母子健康手帳の記載や産科・小児科の連携が重要となる。遅発型は母乳による感染や水平感染も疑われ,髄膜炎の発症率が高い。
GAS咽頭炎では咽頭痛,嚥下痛,発熱などを認めるが,鼻汁・咳嗽はあっても軽度である。嘔気・嘔吐の訴えは多いが,下痢はない。苺舌や扁桃の腫脹,充血,滲出を伴うこともある。軟口蓋の著明な発赤,点状出血は特有な所見である。皮疹を認める場合が多いが,紅斑が広範囲にわたる典型的な猩紅熱は近年少なく,小丘疹や湿疹など様々な形態を呈する。伝染性膿痂疹,丹毒・蜂窩織炎などの皮膚感染症は単独でも生じる。診断は,迅速検査もしくは咽頭培養であるが,特別な理由がなければ迅速検査でよい。急性糸球体腎炎や紫斑病では,血清学的にASO/ASKが溶連菌感染既往を確認する上で参考になる。
GAS咽頭炎には中耳炎,副鼻腔炎,化膿性リンパ節炎,扁桃周囲膿瘍などの化膿性合併症と,リウマチ熱や急性糸球体腎炎,IgA血管炎などの非化膿性の後遺症がある。早期診断・治療が行われるようになり,急性リウマチ熱の症例はきわめて少なくなってきているが,今日でもなお年間数例の報告がある。リウマチ熱は,感染から2~4週間後に発症しやすい。
診断基準はJones criteriaにより,大基準(心臓炎,多発性関節炎,舞踏病,輪状紅斑,皮下結節),小基準(多発関節痛,発熱,赤沈亢進,CRP上昇,PR延長)のうち,大基準2項目,もしくは大基準1項目と小基準2項目で診断される。心臓炎では,心内膜炎が常にみられ,心筋炎,心外膜炎も合併しうる。循環管理のできる小児医療機関へ紹介する。弁膜症で心不全がコントロールできなければ,弁形成,弁置換などを行うこともある。診断がつき次第,抗菌薬を開始し,退院後も長期にわたり投与することを米国心臓協会(AHA)は推奨している。後遺症があれば10年間ないし40歳まで,重症例では終生内服を要するとされていることも銘記しておかねばならない。GAS咽頭炎に対して抗菌薬投与を行う意義は,化膿性疾患の治療や感染拡大予防だけでなく,非化膿性後遺症の合併症を防ぐという意味合いが強い。内服継続の重要性を強調して保護者に説明する。
GBS感染は敗血症,肺炎,髄膜炎を発症し重症化することが多い。症状は哺乳不良,発熱・低体温,黄疸,低血圧,呻吟,無呼吸,多呼吸など,非特異的である。
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