1 神経伝導検査(NCS)を活用するために
神経伝導検査(NCS)はニューロパチー患者の診断に留まらず,多くの患者において有用性がある。したがって,日常的に施行されるべき検査だと考える。ただし,NCSを適切に施行し,正しく評価することは,実は簡単ではない。そこには専門性があり,やりがいがあると思う。
本特集では,まずNCSの一般的な方法と注意点を述べ,続いてルーチンで行うNCSの実技を記載する。次に,NCSはどのような患者で行うべきか,何がわかるかを述べ,最後に症例を通して,NCSの結果をどのように解釈・評価していくかを示す。
2 NCSの一般的な方法と注意点
NCSには,運動神経伝導検査(MCS)と感覚神経伝導検査(SCS)がある。
(1)MCS
MCSでは,運動神経を電気的に刺激し,それによって生じる筋肉の活動電位〔複合筋活動電位(CMAP)〕を記録する。同じ神経を異なる部位で刺激して,複数のCMAPを記録する。2つのCMAPを用いて,神経伝導速度を求めることができる。筋電計の設定,記録電極,刺激電極,パラメーターについてのポイントを述べる。
●F波
F波は,運動神経を電気刺激した際に,CMAPのあとに出現する電位である。
F波は,運動神経を電気刺激した際に生じた神経活動電位が,運動神経を逆行性に伝導し,脊髄前角細胞を興奮させて,今度は順行性に運動神経を伝導し,誘発された筋肉活動電位である。
(2)SCS
SCSでは,感覚神経を刺激し,それによって生じる感覚神経の活動電位〔感覚神経活動電位(SNAP)〕が伝導してきたものを,感覚神経上で記録する。
SNAPを刺激部位よりも近位の神経幹上で記録する方法は,生理的な伝導方向に一致しているため「順行法」と呼ばれる。反対に,SNAPを刺激部位よりも遠位の神経幹上で記録する方法は「逆行法」と呼ばれる。
記録電極,刺激電極,パラメーターについてのポイントを記載する
3 ルーチンで行うNCSの実際の手技
MCSでは,正中,尺骨,脛骨および腓骨神経の手技を示す。
SCSでは,正中,尺骨および腓腹神経の手技を記載する。
4 NCSはどのような患者に施行するのか? 何がわかるのか?
NCSはどのような患者に施行するのか? もちろん末梢神経障害が疑われる患者に対して施行する。しかし,そのような患者だけではなく,患者が筋力低下や感覚低下を訴えていて,その責任病巣がどこにあるかが確定していない場合,最初の評価手法としてNCSを施行すべきである。
(1)末梢神経障害が疑われる患者
手足の筋力低下や感覚低下を訴えていて,神経学的診察にて末梢神経障害が疑われた場合には,NCSを施行する。ニューロパチーの存在の確認,末梢神経障害の病態(軸索障害なのか脱髄なのか)の推測,末梢神経での局在診断,フォローアップ・予後判断などができる。
(2)運動・感覚障害の責任病巣が確定していない患者
患者が運動障害(筋力低下)や感覚障害(感覚低下)を訴えているが,その責任病巣がどこにあるかが確定していない場合,診断の最初の手がかりとしてNCSは大変有用である。
運動障害(筋力低下)では,筋力とCMAPの振幅を比較し,感覚障害(感覚低下)では,感覚とSNAPの振幅を比較することにより,病態を絞ることができる。したがって,筋力低下・感覚低下を認める患者では,最初の評価としてNCSを施行すべきである。