慢性中耳炎(慢性化膿性中耳炎)は,幼小児期に反復した急性中耳炎や滲出性中耳炎などにより生じた永続的な鼓膜穿孔であり,外界からの病原体の侵入により慢性的に中耳の感染を繰り返す病態である。
反復性,持続性の耳漏と難聴が主な症状であり,耳鳴や耳閉感,めまいなどが主訴となる場合もある。耳漏は上気道炎に続いて経耳管的な感染により増悪する。急性増悪時には耳痛も出現する。鼓室内にポリープや肉芽などが存在すると,時に出血をきたすことがある。
・鼓膜穿孔を確認することにより容易に診断できるが,鼓膜弛緩部の陥凹や透見される真珠腫などが存在しないことを確かめる。
・穿孔の大きさや耳小骨病変の状態により,難聴の程度は様々である。伝音難聴が主であるが,長期の罹患により成人では混合難聴を示すことも多い。
・耳漏培養検査からは,黄色ブドウ球菌あるいは緑膿菌,インフルエンザ菌,真菌などが検出されるが,耐性菌(MRSA,多剤耐性緑膿菌)が検出されることもあるので,注意する。
・側頭骨CTでは,患側の乳突蜂巣の発育抑制を認めることが多い。また,中耳腔および乳突腔内の軟部濃度陰影の有無と耳小骨連鎖の状態についても確認する。
慢性中耳炎では鼓膜に穿孔があることから,外界からの細菌の侵入が感染の原因となる。治療の目的は,耳漏の停止と聴力の改善である。慢性中耳炎の根本的治療としては,鼓膜穿孔に対する外科的治療が必要となるが,手術を行わない例では局所感染を制御し,耳漏停止を目的に保存的治療が行われる。患者の希望や社会的背景を考慮して,治療を選択する必要がある。保存的療法は耳の清掃を基本とし,耳洗浄・鼓室処置などの局所処置を行う。感染制御には,起炎菌に対して感受性のある抗菌薬を十分量投与することが基本となる。抗菌薬の点耳に加えて,抗菌薬の全身投与を行うことも一般的である。
難聴の程度が軽く,日常生活に支障がない症例では,感染時に保存的治療で耳漏をコントロールすることで満足する場合も多いが,放置すると難聴が進行する可能性があることを説明する必要がある。
鼓膜穿孔を有する本症に対し点耳や洗浄に用いる薬剤は,内耳毒性がないものを使用する。アミノグリコシドを含む軟膏などの外用薬や,殺菌消毒薬であるクロルヘキシジングルコン酸塩などの使用は禁忌である。リンデロンA®液点耳薬(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム/フラジオマイシン配合)も,聴器毒性があるフラジオマイシンを含有しているので禁忌である。
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