感染性眼内炎は,細菌,真菌,ウイルス,原虫,寄生虫などで起こる。
細菌性:内眼手術(白内障手術,硝子体手術)や抗VEGF(vascular endothelial growth factor)薬などの硝子体注射を契機に,約0.03%の頻度で発症する術後急性細菌性眼内炎である。緑内障手術(濾過手術,主にtrabeculectomy)3カ月~数年後にグラム陽性球菌やグラム陰性桿菌(セラチア菌,インフルエンザ菌,モラクセラ菌)が菲薄化した結膜濾過胞を介して感染を起こす晩期眼内炎。免疫不全を背景に,肝膿瘍など他臓器の化膿巣から主にグラム陰性桿菌(クレブシエラ属,大腸菌,緑膿菌)が血行性に眼内感染を起こす内因性(転移性)眼内炎。穿孔性眼外傷を契機に,グラム陽性球菌やグラム陰性桿菌(緑膿菌)のほか,グラム陽性桿菌(バシラス属)などが感染を起こす外傷性眼内炎。その他,全身感染症に合併する梅毒や結核による眼内炎。
真菌性:IVHや尿管カテーテルなど,体内留置物使用歴のある患者の真菌血症から生じる真菌性眼内炎(主に酵母菌であるCandida属が原因であるが,稀に糸状菌のアスペルギルスやフサリウムも原因となる)である。
ウイルス性:単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスによる急性網膜壊死,サイトメガロウイルスによる網膜炎などヘルペス属ウイルスの眼内再活性化によって生じる眼内炎である。また,human T-cell leukemia virus type 1(HTLV-1)感染者に発症するぶどう膜炎(HTLV-1 associated uveitis:HAU)。
原虫性:トキソプラズマ原虫による眼トキソプラズマ症。
寄生虫性:イヌ回虫,ネコ回虫による眼トキソカラ症。
本稿では,緊急性を要することに加え医原性の局面を有するために対応が難しい,術後急性細菌性眼内炎の治療について述べる。
内眼手術から眼内炎発症までの期間はおよそ3日~1週間以内であるが,硝子体注射後の眼内炎はより早く,3日以内に発症することが多い。前房中には著しい炎症細胞を認め,瞳孔領や虹彩面にはフィブリンが析出,さらに重篤な場合には前房蓄膿を生じる。患者は病初期から明らかな霧視や視力低下を自覚するが,毛様充血や眼痛の程度は様々であり,眼痛を認めないことも稀ではない。
細菌感染に起因する激烈な炎症による網膜のダメージを最小限に抑える最大限の治療を行うためには,抗細菌療法と抗炎症療法に立脚した硝子体手術が必須である。抗細菌療法では,眼内炎の主たる起炎菌である薬剤耐性菌を含むグラム陽性球菌〔coagulase negative Staphylococcus(CNS),黄色ブドウ球菌,連鎖球菌属の溶血連鎖球菌・肺炎球菌,腸球菌など〕に抜群の効果があるバンコマイシンを第一選択薬とする。また,頻度は低いながらバンコマイシンが無効なグラム陰性菌(緑膿菌など)が原因である可能性も考慮して,第3世代のセフェム系薬(セフタジジムなど)を組み合わせて用いる。これらの抗菌薬を添加した灌流液を用いた前房洗浄や,硝子体手術が主力療法であり,同時に行う他の抗菌薬の全身投与や点眼などは,補助療法にすぎない。また,術後眼内炎の本態が細菌感染を引き金にした重篤な炎症性疾患であることからも,確実な抗炎症療法を行わなければ,感染症(感染+炎症)の治療は完結しない。実際には,硝子体手術により細菌増殖を抑止しながら,同時にステロイドの全身および局所投与を行う。
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