今年もあっという間に年末になった。相変わらず日常診療に忙殺されじっくり考える余裕のない1年だった。今回は年の瀬ということで、1年を総括すべく思いつくまま日頃気になっていることを書かせていただく。
仕事の合間を縫って、本誌を含めて10以上の連載をすべて休まずに続けることができた。また今年は十数冊の書籍にも関わることができた。たぶん一生でこんなに恵まれた1年はないだろう。なぜ書くのか? いつ書くのか? とよく質問されるが、現場の人間として言いたいことをわずかな時間を利用して書いているだけで、それほど大きな理由があるわけではない。
気になるのは書店に並ぶ医学関連の一般書である。相変わらず極論本がズラリと並ぶ。「○○するな!」「○○せよ!」という命令口調が昨今の流行りだ。肉を食うな、いや食え。抗がん剤はするな、いやせよ。真面目な読者は「どっちを信じたらいいのか」と大いに迷うだろう。しかし真実はそれらの中庸にあるのではないか。そんな想いで、自分なりの中庸論を説いてきたつもりだが、中庸論は地味で平凡で面白みがないのであまり売れない。だから極論本だけがメディアに受け、悪循環に陥っている気がする。
『長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?』という近著は5刷となった。“がんもどき”と“本物のがん”の2つしかない、という近藤誠理論に異を唱えたが、反近藤本というカテゴライズは間違っている。むしろ、死ぬまで抗がん剤を打っているがん医療界に警鐘を鳴らすつもりで書いたのだが、メディアに真意を理解していただくのは難しく、極論の洗脳を解くのは大変だと感じている。
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