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圧迫性ニューロパチー (手根管症候群などの単ニューロパチー)[私の治療]

No.5043 (2020年12月19日発行) P.35

稲葉 彰 (関東中央病院脳神経内科部長)

登録日: 2020-12-18

最終更新日: 2020-12-16

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  • 末梢神経が外的・内的要因により圧迫されて生じる,基本的に単一の神経障害(単ニューロパチー)である。慢性的な圧迫(手根管症候群,肘部尺骨神経障害など)と,急性の圧迫によって生じるもの(橈骨神経麻痺,腓骨神経麻痺など)がある。急性圧迫は自然経過で回復するが,慢性の圧迫では症状により専門医にコンサルトし,手術療法などを考慮する。

    ▶診断のポイント

    臨床徴候から圧迫性ニューロパチーを疑い,他疾患(脳血管障害や変形性脊椎症など)を鑑別することが重要である。神経伝導検査は障害部位の同定に有用である。ガングリオンや腫瘍などによる圧迫を鑑別するため,画像診断を適宜追加する。

    【手根管症候群】

    手関節部での正中神経の障害で,圧迫性神経障害で最も高頻度である。

    〈臨床症状〉

    ①母指から環指の橈側までのしびれや感覚低下,②環指の尺側は尺骨神経支配であるので正常(ring finger splitting),③母指球筋・虫様筋の筋萎縮(猿手:simian hand),④夜間に増悪し目が覚める,⑤手を振ると症状が軽減(flick sign),⑥手根管部の叩打でしびれが放散(Tinel徴候),⑦手首の屈曲でしびれが増強(Phalen徴候)。

    〈神経伝導検査〉

    運動遠位潜時の延長と,手首に限局した感覚神経伝導速度の低下。第2虫様筋-骨間筋比較法,環指比較法などで,障害が正中神経に限局していることを確認する。

    〈その他〉

    甲状腺機能低下症,アミロイドーシス,糖尿病などの全身疾患に伴うことがある。

    【肘部尺骨神経障害】

    尺骨神経が,内側上顆後方の尺骨神経溝,肘部管,肘関節より近位で圧迫されることによって発症する。

    〈臨床症状〉

    小指と環指の尺側のしびれ,小指外転筋や背側骨間筋の萎縮(鷲手:claw hand),母指と示指で紙を引っ張ると母指IP関節が屈曲(Froment徴候)。

    〈神経伝導検査〉

    肘上部から肘下部に限局した伝導速度の低下や伝導ブロック。インチング法が障害部位の同定に有用である。

    【Guyon管症候群】

    手根骨の有鉤骨と豆状骨の間での尺骨神経の圧迫による。原因はガングリオン,手掌に圧迫が加わるような作業など。

    〈臨床症状〉

    小指と環指の尺側の感覚障害,小指外転筋・骨間筋の萎縮。絞扼部位により感覚症状のみや運動症状のみのことがある。

    〈神経伝導検査〉

    遠位潜時延長,運動,感覚電位の低下。尺骨神経背側皮枝はGuyon管を通過しないので正常である。

    【橈骨神経麻痺】

    上腕外側の橈骨神経溝での圧迫による。アルコール多飲後に眠り込む(土曜の夜の麻痺)など,上腕の外側を持続的に圧迫することで生じる。パーキンソン病など無動と体幹傾斜があると,車椅子の肘掛けなどで圧迫して起こることがある。

    〈臨床症状〉

    手指や手首の伸展障害(下垂手:drop hand),手指や手首の屈曲は正中・尺骨神経支配であるので正常,浅橈骨神経支配領域の手背橈側のしびれや感覚低下。

    〈神経伝導検査〉

    橈骨神経溝での伝導ブロック。インチングで病変を同定する。

    〈その他〉

    大脳運動野に限局した脳梗塞で,手指の筋力低下のみをきたすことがあるので,手指屈曲も弱いなどの症状があれば,頭部MRIを施行する。

    【腓骨神経麻痺】

    腓骨頭部での圧迫による。長時間足を組む,飲酒後の睡眠や,手術中に膝の外側を固いもので圧迫することなどで生じる。

    〈臨床症状〉

    足首,足趾を背屈できない(下垂足:drop foot),一方で底屈は正常。足背のしびれ,感覚低下。

    〈神経伝導検査〉

    腓骨頭遠位と膝窩の間での伝導ブロックや伝導速度低下を検出する。

    【感覚異常性大腿痛】

    鼠径靱帯と上前腸骨棘の間を通過する部位での外側大腿皮神経の絞扼による。腹圧上昇(肥満,妊娠),急激な痩せ,外的な圧迫(ジーンズ,ベルト)などで生じる。

    〈臨床症状〉

    大腿の前外側部のしびれ,灼熱痛。立位で増強することが多い。

    〈神経伝導検査〉

    外側大腿皮神経の感覚伝導検査で反応低下もしくは消失。健側との比較が有用である。

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