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一件落着[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(340)]

No.5051 (2021年02月13日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-02-10

最終更新日: 2021-02-08

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国立循環器病研究センターの研究不正調査委員会の委員長を務めた。大きく報道されたので、テレビや新聞のニュースを見て、あんな「ええ加減」を書いてるような奴にできるのかと思われた方もおられるかもしれません。が、やる時はちゃんとやるんです。

相当な時間と手間がかかるだろうと覚悟してお引き受けしたのだが、実際には想像をかなり上回るものだった。しかし、それ以上に、データの調査に直接携わってくださった委員の先生方の作業量は信じられないくらい膨大であったと推察している。

0次データ(実際に測定した機器などに保存されているデータ)、1次データ(0次データからPCに取り込んだデータ)、2次データ(論文作成用のデータ)と、3段階のデータがある。それらを突き合わせて齟齬がないかどうかを調べる作業であるが、ここまで詳しく見てもらえたのかと感動したほどだ。

委員会は8回開催された。というと、たいしたことなさそうに聞こえるかもしれない。しかし、メール会議はそれ以上の回数をおこなったし、日程調整も難航。毎回の資料作成など、事務方の仕事量も半端ではない。それに、ぼんやりとしたルーチンの委員会ではなくて、比較的短期間で納得いく結論を出さねばならないから大変だった。

研究不正とは、捏造、改竄、盗用によるものをいう。さらに、故意または重過失による「特定不正行為」が定められている。何をもって不正と認定するのか、そして特定不正行為をどう切り分けて考えていくのか。

意見が活発にやりとりされたのはありがたかった。一方で、まとめていくのは結構しんどかった。それに、科学的な見地からの判断はできるが、倫理や法律の面からどう考えるべきかについては素人だ。それぞれご専門の委員には本当にお世話になった。

あってはならないこととはいえ、どの機関においても生じうることである。かといって、個々の機関にとっては、そう頻繁に起きるものでもない。だから、ノウハウの蓄積がされにくく、案件が生じてから手探りで進めるような状況にならざるをえない。

あまりに効率が悪い。研究公正を取り扱う組織を文科省かどこかに設置すべきではないか。あるいは、こういったことに詳しい専門家の育成も必要かもしれない。というても、楽しい仕事とはとても言いにくいから、難しいかもしれませんけど。

なかののつぶやき
「たいがいどんな仕事でも、落着したら何らかの達成感があるものですが、研究不正の調査では、ほとんど感じることができませんでした。調査結果をもって何かが前に進む、というものではないためかと考えています。今後どこかで研究不正事案が発生した時、ナカノは委員長としての経験があるから頼もう、などと考える人が出てこないことを切に願っています。まぁ、頼まれたとしてもお引き受けするつもりはありませんが」

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