良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)は,中高年(更年期以降)の女性に好発する。炭酸カルシウムからなる耳石が発症に関与していることから,閉経に伴うカルシウム代謝異常がその発症要因のひとつと考えられている。特定の頭位をとったり頭位変換後,回転性めまいが出現し,同時に特徴的な眼振が出現する。卵形嚢由来の耳石小片が,三半規管に迷入することによって,本来は回転角加速度の受容器である三半規管が,重力加速度の方向の変化(頭位の変化)に反応するようになり,めまいや眼振が生じる。後半規管型と外側半規管型が多く,前半規管型は稀である。半規管結石症とクプラ結石症の2つの病態が存在する。
特定の頭位(靴ひもを結ぶ,歯科治療や美容院での洗髪の際など)をとったり,頭位変換(寝返りなど)後に,回転性(症例によっては動揺性)のめまいが出現する。めまいは特定の頭位をとったり頭位変換後次第に増強し,ついで減弱ないし消失する。引き続き同じ動作を行うと,めまいは軽くなるか,起こらなくなる。耳鳴や難聴,耳閉感などの聴覚症状は随伴しない。もともと聴覚症状があってもめまい発作時には変化を認めない。中枢神経症状も認めない。
確定診断ならびに患側の決定には,頭位変換眼振検査(Dix-Hallpike法)および頭位眼振検査の施行が必要不可欠である。頭位変換眼振検査にて,数秒~数十秒の潜時を有する回旋成分が強い上眼瞼向き眼振が出現し,これが数十秒以内に消失する場合は,後半規管型BPPV(半規管結石症)と診断する。Dix-Hallpike法では,眼振が出現する頭位で下になる側が患側である。右下,左下の両懸垂頭位とも眼振が生じる場合は,眼振持続時間の長いほうが患側である。潜時がないか,あっても短い潜時で眼振が出現し,これが長く続く場合は後半規管型BPPV(クプラ結石症)である。後半規管型BPPVにおいてはほとんどが半規管結石症で,クプラ結石症の頻度は低いと考えられている。回旋成分が強い下眼瞼向き眼振が出現する場合は,前半規管型BPPVである。頭位眼振検査で,方向交代性向地性(下行性)眼振(右下頭位で右向き水平性眼振,左下頭位で左向き水平性眼振が出現)を認めた場合は外側半規管型BPPV(半規管結石症),方向交代性反地性(上行性)眼振(右下頭位で左向き水平性眼振,左下頭位で右向き水平性眼振が出現)を認めた場合は外側半規管型BPPV(クプラ結石症)と診断する。
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