【質問者】
中村雅史 九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科 教授
【切除不能な患者に対し厳格な基準のもと行うことで予後の大きな改善が期待される】
ご存知の通り,肝門部領域胆管癌は完全切除が唯一の治療法で,1970年代以降,わが国の肝胆膵外科医が門脈塞栓術を用いた大肝切除や血管合併切除,肝膵同時切除などを導入して予後を劇的に改善し,世界を先導してきました。しかし,切除不能な場合,5年生存率は数%~10%前後にとどまります。
1990年代に米国のMayo Clinicが切除不能な肝門部領域胆管癌に対し,化学放射線療法後に肝移植を行うプロトコルを確立し,良好な長期予後を報告しました1)。この結果を受けて,切除不能な肝門部領域胆管癌は米国では2010年より通常の肝移植適応となっています。移植適応基準として,局所過進展で切除不能または残肝容積不足・肝機能不良で肝切除後肝不全の懸念があること,腫瘍径が3cm以下,肝内・肝外転移がないこと,術前治療が行われていることが必須です。2012年にはMayo Clinicを含む米国12施設の結果が報告され,切除不能な肝門部領域胆管癌に対し術前治療を施行後に肝移植に至った214人の5年無再発生存率は65%でした2)。さらに欧米では切除「可能」病変に対する移植適応の拡大が議論されており3),フランスではランダム化比較試験が進行中です(Clinical Trials. gov:NCT02232932)。
2019年2月にはオランダ・ロッテルダムでtransplant oncology(腫瘍学と移植医学の融合で難治がん・高度進行がんの治療と研究を発展させる概念)4)に関する初の国際コンセンサス会議が開かれ,切除不能な肝門部領域胆管癌に対する術前化学放射線治療後の肝移植は「中等度の推奨」とされました5)。
現在の課題は主に次の3点が挙げられます。
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