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運動麻痺[私の治療]

No.5062 (2021年05月01日発行) P.31

西山 隆 (自衛隊中央病院救急科部長)

登録日: 2021-04-29

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  • 運動麻痺(motor paralysis)は,大脳(運動中枢)から筋肉までの神経路障害で,随意運動が困難になる状態である。病変の局在診断とその原因および質的診断を行い,治療法について考える。

    ▶病歴聴取のポイント

    発症様式(急性,亜急性,慢性,先天性)や症状経過(進行性,普遍,改善,反復性,発作性,持続性),症状の変化因子(日内変動,体位変動)を確認する。既往歴は血管性病変を示唆する高血圧や糖尿病の有無,ギラン・バレー症候群を疑う先行感染症,中毒性ミオパチーとなるような常用薬,また飲酒や偏食などの生活歴についても確認する。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    【バイタル】

    救急初療室ではバイタルサイン,全身状態の安定化を確認し,診察を行う。

    【身体診察】

    運動麻痺は他覚的所見であり,身体診察は診断を進めていく上で最も重要な要素となる。まず神経原性か筋原性かの鑑別を念頭に置き,局在診断として単麻痺,片麻痺,対麻痺,四肢麻痺に分類する。単麻痺は末梢神経障害で生じることが多い。片麻痺では,顔面神経麻痺を伴う場合は脳幹(橋正中部の顔面神経核)より上位の障害を考え,顔面神経麻痺を伴わない場合は脊髄レベルの障害を疑う。脳幹部の障害では脳神経麻痺と片麻痺の出現側が異なる交差性片麻痺をみることがある。対麻痺は脊髄の横断症状としてみられるが,前頭葉内側の運動領野下肢領域の障害でもみられる。

    意識がある場合は,病変局在や病状程度についての把握は病歴をふまえた身体診察で比較的容易である。一般に,上位運動ニューロン障害は大脳皮質運動野から内包,脳幹,脊髄に至る経路の障害で,深部腱反射亢進や病的反射陽性で線維束攣縮はみられない。通常は個々の筋力低下ではなく,協調する筋群に障害が認められ,脳血管障害ではNIH stroke scaleで運動麻痺の程度を定量的に評価する。下位運動ニューロン障害は脊髄前角細胞から筋線維に至る障害で,深部腱反射消失や病的反射陰性で線維束攣縮や筋萎縮がみられる。個々の筋力評価として徒手筋力テストを行う。

    意識障害を認める場合は,四肢の動きの左右差の観察で,動きの少ない側に片麻痺を疑う。痛み刺激に対する体動や払い退け動作で,麻痺の有無や筋緊張低下の判断が可能となる。arm drop testでは顔面上に上肢を他動的に持ち上げ,放した際に顔面に当たる形で素早く腕が落ちる場合(陽性)は麻痺があると考え,頭蓋内疾患などを疑う。顔面を避けるような形で腕が落ちた場合(陰性)はヒステリーによる意識障害を疑う。下肢麻痺の有無は膝関節を受動的に屈曲させ,検者が手を放した際に,麻痺側は直ちにそのまま外側に倒れ,健側はそのままの肢位を保つか,ゆっくりと膝が伸びて伸展位になる。

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