医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)の定義は,①療養病床もしくは介護施設に入所している(精神病床も含む),②90日以内に病院を退院した,③介護(PS 3以上*1を基準)を必要とする高齢者,身体障害者,④通院にて継続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学療法,免疫抑制薬など)を受けている患者の肺炎となる。2017年に刊行された日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」1)では,それまでの市中肺炎・医療介護関連肺炎・院内肺炎の3分類を,市中肺炎と医療介護関連肺炎+院内肺炎の2つにわける考え方となった。その背景は,後者には人生の最終段階(終末期)の患者が入り,個人の意思尊重を最優先とする終末期医療の考え方が入っている。
*1:PS:Performance Statusの略。身体状態の指標で,患者の日常生活の制限の程度を示す。PS 0~4まであり,PS 3は限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす状態を示す。
患者状態の把握から始め,①誤嚥性肺炎のリスクと,②疾患の終末期や老衰状態かを判断する。容易に繰り返される誤嚥性肺炎や最終段階(終末期)の患者は,患者本人の意思を最優先し,治療方針を決める。
一方,最終段階以外の患者は薬剤耐性菌のリスクと肺炎の重症度を判断し,ガイドラインが推奨する抗菌薬を使用する。薬剤耐性菌のリスク因子は,①過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴,②過去90日以内に2日以上の入院歴,③免疫抑制状態,④活動性の低下(PS 3以上*1,あるいはパーセル指数:50点未満*2),⑤歩行不能,経管栄養または中心静脈栄養法の2項目以上に該当する場合,耐性菌の高リスク群と判断する。次に敗血症の有無を判定する。①呼吸数22回以上,②意識変容,③収縮期血圧100mmHg以下のいずれか2つ以上があるときは,重症化のサインとして敗血症を疑う。NHCAPではA-DROPを用いて重症度を判定する。A-DROP2)とは,
Age:男性70歳以上,女性75歳以上
Dehydration:BUN 21mg/dL以上または脱水あり
Respiration:SpO2が90%以下(PaO2:60torr以下)
Orientation:意識障害あり
Pressure:収縮期血圧90mmHg以下
の頭文字で,このうち3つの指標に該当する場合を重症(4つ以上は最重症)と判定する。
*2:パーセル指数:①食事,②移動,③整容,④トイレ動作,⑤入浴,⑥歩行,⑦階段昇降,⑧着替え,⑨排便,⑩排尿を各々0~15点でスコア化し,点数が低いほど活動性の低下がある。
誤嚥性肺炎は高齢者や終末期の患者に起こりやすいが,誤嚥自体は必ずしも肺炎を発症するとは限らない。誤嚥には嚥下機能低下や胃食道機能不全の病態が背景にあり,肺炎がない場合は治療対象とならない。誤嚥の原因となる基礎疾患を評価し治療する。誤嚥により肺炎が生じるリスク因子は,喀痰排出能の低下,気道クリアランス能の低下,免疫能の低下などがあり,長期臥床状態,低栄養,全身衰弱状態や慢性気道炎症性疾患などの終末期に多く見られる。NHCAPの多くは誤嚥性肺炎であり,普段より口腔ケアに努め,ワクチン接種による予防を勧める。
NHCAPでは高齢者や全身状態不良な患者が多く,発熱,咳嗽,膿性痰,息切れや胸痛などの典型的な呼吸器症状を呈さない例も多くあり,留意する必要がある。
最終段階(終末期)の患者に対し,患者本人の意思を最優先し,家族などの介護者の状況(老老介護,精神的・社会的側面など)も考慮する。多職種の医療従事者で構成する医療ケアチームが患者情報を収集・共有し,患者や介護者と協議し治療方針を決め援助する。医療行為の変更や中止は,医学的妥当性や倫理性を慎重に判断し,患者の疼痛や不快な症状の緩和を可能な限り行う。
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