脳膿瘍は,脳実質における局所性の感染性炎症が進展し,膿瘍形成に至る疾患である。発症様式としては,隣接部位の感染症の直接進展による発症,外傷・手術後の発症,血行性播種による発症,免疫不全を背景とした発症などがあり,それぞれ原因微生物の種類が異なる。
古典的三徴は「発熱」「頭痛」「神経脱落症状」であるが,三徴がすべてそろう症例は半数以下にすぎない。膿瘍の部位や大きさ,周囲の浮腫の程度により意識障害,悪心・嘔吐,痙攣なども生じうる。
血液検査所見は診断・除外には有用でなく,白血球数やCRP値の上昇がない例もしばしば経験する。頭部CT,頭部MRIでリング状の造影効果を伴う脳内の占拠性病変を認めるが,発症初期にはCTでは病変の存在が不明確な場合もある。MRIの拡散強調画像では病変は高度の高信号を示し,腫瘍性疾患などの他の脳占拠性病変との鑑別に有用とされる。
確定診断は,病変部の穿刺吸引検体・生検検体の微生物学的検査により得られる。
治療は膿瘍の穿刺吸引排液(ドレナージ)と,吸引液の微生物学的検査結果に基づく長期の抗菌薬投与により構成される。臨床所見や画像所見の改善を確認しながら,原則的には長期(6~8週間)の静注抗菌薬治療を行う。抗菌薬は脳膿瘍への移行が良好な薬剤を高用量で用いる。
膿瘍形成に至る前に診断に至った例や,小膿瘍(直径2.5cm未満)のみの場合には例外的に内科的治療のみで治癒する例もあるが,原則的には診断と治療を兼ねての早急な膿瘍穿刺吸引が必要となるため,脳神経外科医との連携が必須である。
原因微生物によっては培養検出のために特殊な培地の使用や長期の培養が必要な場合もあり,さらには診断に遺伝子検査や病理組織学的検査を要する場合もある。後述の抗菌薬選択と併せて感染症科医との連携が有益である。
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