【質問者】
市田晃彦 東京大学医学部附属病院 肝胆膵外科・人工臓器移植外科
長谷川 潔 東京大学医学部附属病院 肝胆膵外科・人工臓器移植外科教授
【適応基準拡大により,肝細胞癌(HCC)合併例の肝移植数増加が予想される】
肝移植は背景の肝硬変も含めた治療であり,理論上はこれにまさるHCCに対する治療法はないと言えます。わが国では最近までミラノ基準(CT/MRIで「腫瘍径5cm以下で腫瘍数1個」あるいは「腫瘍径3cm以下で腫瘍数3個以下」)を満たすHCCに対する肝移植に保険が適用され,脳死肝移植登録基準もミラノ基準内HCCでした。2018年末までの初回成人間生体肝移植5741例中,HCC合併例は1680例(29.3%)に達しています。一方,2018年末までの成人初回脳死肝移植365例中のHCC合併例は30例(8.2%)のみでした。長期にわたる脳死肝移植待機期間中にHCCの進行によりミラノ基準から逸脱し,脳死肝移植(国内では年間100例に満たない)を受けられなかった症例が多数あると考えられます。
わが国では2019年に脳死肝移植,2020年に生体肝移植の適応基準がJapan基準(5-5-500基準またはミラノ基準)に拡大されました。5-5-500基準とは,CT/MRIで「腫瘍径5cm以下かつ腫瘍数5個以下かつAFP 500ng/mL以下」のHCCを指します。当科では九州大学基準内HCC(腫瘍径5cm以下あるいはPIVKA-Ⅱ 300mAU/mL以下)症例を生体肝移植の施設適応として,2020年末までにHCC 256例に生体肝移植を施行してきました。ミラノ基準外は75例で,このうち31例(41.3%)はJapan基準内でした。この結果から,今後保険適用内での生体肝移植数の増加が予想されます。
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