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新型コロナ感染症に対する抗体カクテル療法が特例承認:「重症化リスク因子」を有する軽症・中等症患者に使用できる初の治療薬【Breakthrough 医薬品研究開発の舞台裏】

No.5075 (2021年07月31日発行) P.14

登録日: 2021-07-27

最終更新日: 2021-07-27

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厚生労働省は7月19日、中外製薬が申請していた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するカシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル療法「ロナプリーブ点滴静注セット」を特例承認した。ロナプリーブは国内で初めて薬事承認された「軽症~中等症のCOVID-19治療薬」となる。日本への流通量は限られており、安定供給が難しいことから、厚労省は一般流通は行わず、ロナプリーブを中外製薬から買い上げ、医療機関からの依頼に基づき無償提供する方針だ。カシリビマブ・イムデビマブの抗体カクテル療法の作用機序や臨床成績、使用するための手続き、投与対象などを整理する。

ロナプリーブは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質に対する2種類の中和抗体カシリビマブとイムデビマブを同時投与することにより、SARS-CoV-2の宿主細胞への侵入を阻害し、ウイルスの増殖を抑制する中和抗体薬。2つの抗体がスパイクタンパク質の受容体結合部位に非競合的に結合することで、スパイクタンパク質と宿主細胞表面の酵素との結合を阻害(中和)する。

入院・死亡リスクが70%低下

ロナプリーブについてはこれまでにCOVID-19患者を対象とした複数の臨床試験が実施。重症化リスク因子を有し酸素飽和度93%(室内気)以上の患者を対象とした海外試験(COV-2067試験)のデータによると、入院または死亡に至った被験者の割合は、プラセボ群(748例)の3.2%に対しロナプリーブ投与群(736例)は1.0%で、入院または死亡のリスクを70.4%低下させた(p=0.0024)という。

これらのデータに基づき、カシリビマブ・イムデビマブの抗体カクテル療法は2020年11月に米国で緊急使用許可(EUA)を取得。ただ、これまでに正式に承認した国はなく、薬事承認は日本が初めてとなる。

同療法は米国のリジェネロン社とスイスのロシュ社が開発。中外製薬は日本での開発権、独占的販売権をロシュ社より取得している。特例承認を受け、中外製薬の奥田修社長は「ロナプリーブは、デルタ株をはじめとする複数の変異株に効果があることが非臨床試験で確認されている。感染拡大を続く中、可及的速やかな供給に向け日本政府や関連事業者と緊密に協働していく」とコメントしている。

 

国が買い上げ、医療機関に無償提供

国内で使用が認められているCOVID-19治療薬としてはこれまでにレムデシビル(販売名:ベクルリー)、デキサメタゾン(販売名:デカドロンほか)、バリシチニブ(販売名:オルミエント)の3種類があるが、いずれも投与対象は中等症~重症の患者だった。

ロナプリーブは、臨床成績を踏まえ、添付文書に「重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者(軽症~中等症Ⅰ)を対象に投与を行うこと」と明記され、軽症~中等症の患者に使用できるCOVID-19治療薬として国内で初めて承認された。

ただ、ロナプリーブの総供給量は全世界的に限られており、国内での安定的な供給が難しいことから、厚労省は供給が安定するまでの間、ロナプリーブを国で買い上げ、医療機関からの依頼に基づき無償提供する方針を決めた。

 

投与対象は海外試験の基準など参考に判断

カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)に関する医療機関向けQ&Aを盛り込んだ7月20日付事務連絡によると、ロナプリーブの配分を希望する医療機関は、中外製薬が開設した「ロナプリーブ登録センター」に登録し、配分依頼の手続きを進める必要がある。

同センターでは、各医療機関からの配分依頼を各平日15時時点で取りまとめ、原則、翌日から3日以内 (土日祝日を除く)に送付するとしている。

投与対象とされている「重症化リスク因子を有する者」については、①COV-2067試験の組み入れ基準における重症化リスク因子、②日本の「COVID-19診療の手引き」における重症化リスク因子、③米国のEUAで例示されている重症化リスク因子―のいずれかを有する者であって、医師が必要と判断したものについては投与対象になり得るとし、当面は病院・有床診療所の入院患者に対象を限定する考えを示している。

COV-2067試験の組み入れ基準では、重症化リスク因子として「50歳以上」「肥満(BMI 30kg/㎡以上)」「心血管疾患(高血圧を含む)」「慢性肺疾患(喘息を含む)」「1型または2型糖尿病」「慢性腎障害(透析患者を含む)」「慢性肝疾患」「免疫抑制状態」を挙げているが、使用を希望する患者・家族が増えることが予想される中、各医療機関の現場では個々のケースについて難しい判断を迫られることになりそうだ。

【関連情報】

新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬「カシリビマブ及びイムデビマブ」の医療機関への配分について(2021年7月20日 厚生労働省事務連絡)

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