ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の飛沫感染ないし皮膚病変からの接触感染により発症する。ヒトが唯一の保有動物とされ,無症候性保有者が感染源となりうる。呼吸器(鼻咽頭)と皮膚を主病変とするが,病巣で産生された毒素により心臓や神経が侵されることがある。致死率は10%前後であるが,資源が限られた国では20%に及ぶ。日本では2類感染症に指定されており,診断後直ちに最寄りの保健所を通して都道府県知事へ届けなければならない。
1948年にトキソイドワクチン定期接種が開始されてから,国内での発症者は激減した。1985年以降は年間10件以下となり,1999年の報告が最後である。致死的な疾患であり,輸入症例や免疫低下後の感染など注意が必要である。
典型的には2~5日間の潜伏期の後に緩徐に発症する。咽頭の痛みや違和感,頸部リンパ節腫脹,微熱が初期症状である。咽頭の所見は発赤から始まった後,組織破壊による滲出物および好中球でできた灰色の偽膜を形成する。病状が進行すると,扁桃腺・口蓋垂・頸部リンパ節・下顎部・前頸部の腫脹をきたし,偽膜形成が声門,気管支まで進展すると,気道閉塞により死に至ることがある。咽頭の偽膜形成が重度の例では菌体による毒素産生量が多く,心筋炎や多発ニューロパチーを合併することがある。皮膚ジフテリアは,四肢の外傷などに続発して起こる難治性の潰瘍性病変であることが多い。
確定診断は病変部位からのジフテリア菌の検出である。検体採取にあたって,偽膜は組織と固着しており,剝がそうとすると出血するため,注意が必要である。鼻咽頭に常在するCorynebacteriumと区別するために特殊培地(Loeffler培地やTindale培地)が必要であり,検体を提出する際には検査室と事前のやりとりが必要である。
治療開始の遅れは予後の悪化につながるため,臨床的にジフテリアを疑う場合には,確定診断を待たずに治療を開始する。治療は,抗菌薬療法と鼻咽頭ジフテリアではウマ抗毒素療法が主となる。抗毒素により,細胞に結合したジフテリア毒素を中和することができるため,迅速な投与が重要である。
抗菌薬は,ペニシリン(procaine penicillin G)ないしエリスロシン®(エリスロマイシンラクトビオン酸塩)で有効性が報告されている。日本においてprocaine penicillin G製剤が使用できず,エリスロマイシンが第一選択となる。アレルギー等でエリスロマイシンが使用できない場合には,クリンダマイシンやリファンピシンが代替薬となる。治療期間は14日間である。抗菌薬は感受性に基づいて適正化する。
抗毒素は国が備蓄しており,使用の際には最寄りの保健所ないし都道府県(緊急時には備蓄施設)を介して供給を依頼する。投与にあたっては即時型過敏症の可能性があり,十分な配慮が必要である。
残り1,312文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する