医院・クリニックを開業したけれども経営に失敗するなど,医師でも自己破産するケースがあります。医師は借金や自己破産にはほど遠いイメージがあるかもしれませんが,実際に自己破産した事例はあります。
では,もし医師が自己破産するとどうなるのでしょうか? また,自己破産しても医師を続けることは可能なのでしょうか? 医療法人の理事だった場合はどうなるのでしょうか?
自己破産というと,「借金を返さなくてよくなる代わりに,無一文になり職も失う」というイメージを持っている方が多いものです。
しかし,自己破産したからといって,医師免許を剝奪されることはありません。
医師免許が与えられない条件については,医師法第4条に記載されています。
たとえば何らかの刑事告発をされるような事件を起こして,罰金以上の刑を受けた場合は,医師免許を剝奪される可能性があります。これは前回,“医師の行政処分”についてお伝えした通りです。
しかし,自己破産については,医師法の条文から読み取れないように,医師免許剝奪の条件には当てはまりません。つまり,医院・クリニックを開業後,経営に失敗して自己破産したとしても,すぐ勤務医に戻ってやり直せるということです。
余談になりますが,これはすべての職業に当てはまるわけではありません。税理士や弁護士,公認会計士といった職業は,自己破産による資格制限が発生します。しかし,医師については資格制限がないのです。
また,勤務医に戻ったとしても,勤務先の病院に,自己破産したという事実が発覚することもほとんどありません。官報をチェックされていなければ,そのようなケースはほとんどないでしょう。
当然,履歴書に「自己破産した」と自分で書く必要もありません。しかし,面接時に「なぜ開業した医院・クリニックを廃業したのか?」といったことを聞かれる可能性はあります。
自己破産しても医師を続けることに問題はありませんが,また,医院・クリニックを開業することは可能なのでしょうか?
結論を言うと,5~10年程度は難しいでしょう。医院・クリニック開業の際に資金調達は必須の課題ですが,自己破産することにより融資を受けることが難しくなるためです。
なお,融資を受けられない期間は,だいたい5~10年かと考えられます。個人信用情報機関で信用情報に登録される期間は,だいたいそのくらいの期間であるためです(表1)1)~3)。
全国銀行個人信用情報センターの登録期間は,個人再生・自己破産では10年ですが,借金の返済義務が残る任意整理等では5年になります。しかし,返済が滞ることになれば,新たに信用情報に登録されるので注意して下さい。
医療法人の理事が自己破産した場合でも,自己破産が医療法人の理事の欠格事由に当たるような記載はありません。
そのため,自己破産したからといって,医療法人の理事を退任までする必要はありません。
しかし,医療法人の理事に関しては内部の約款で退任事由とされていることがあり,その場合は理事を退任する必要があります。ただし,自己破産後,医療法人の理事を退任しても,同じ医療法人で勤務医として働くケースも想定されます。