三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)は, 手関節尺側の尺骨頭と手根骨(月状骨・三角骨)の間隙に位置する線維軟骨(円板)と靱帯の複合体である1)。TFCCの機能は, 手関節尺側の安定性の保持と手根骨から前腕への応力の伝達である。TFCC靱帯は,橈骨sigmoid notchから起始し尺骨小窩に付着する橈尺靱帯, 尺骨尺側手根骨を掌側で連結する尺骨手根靱帯と,背側で連結する尺側側副靱帯(尺側手根伸筋腱床)により構成され,それぞれ遠位橈尺関節および尺骨手根関節の安定性に寄与している2)。
TFCC線維軟骨(円板)は,橈骨sigmoid notchから尺側遠位方向にハンモック状に位置する。TFCC円板の遠位部は尺側手根骨と関節を構成し,尺側手関節から前腕へ応力を伝達する。TFCC円板の近位部は尺骨頭と接しており,遠位橈尺関節を構成する。
TFCC損傷は,外傷性あるいは加齢変性に伴って発生する。後者はoveruseによる繰り返し外傷が寄与するが,しばしば軽微な外傷後に症状が増悪する。
外傷性損傷は,手関節背屈位で手をついた際や前腕の回内外強制を受けた際に発生する。通常,TFCC靱帯部の損傷は尺骨小窩で生じる。また,TFCC円板部の外傷性損傷の形態や部位は様々である。
変性損傷は,橈尺骨長の不均衡〔尺骨が相対的に長い(plus variance)〕に伴う尺骨突き上げ症候群に合併して生じることが多い。通常,TFCC円板部中央の変性断裂に伴って,尺骨頭や尺側手根骨(月状骨・三角骨)の軟骨変性が生じる。
手関節尺側痛を訴え,前腕の回内外運動で疼痛が誘発される。円板部損傷では有痛性クリックを触知する場合もある。靱帯部損傷では前腕回内位で尺骨頭が背側に突出する(piano key sign)。
TFCC靱帯損傷の徒手検査は,尺骨小窩部の圧痛(fovea sign),遠位橈尺関節の掌背側方向への動揺性の判定(DRUJ ballottement test)により行う(図)。DRUJ ballottement testは橈骨と手根骨を把持して行い,健側と比較して動揺性の有無を判定する3)。TFCC線維軟骨(円板部)損傷の徒手検査は,TFCCストレステスト(ulnocarpal stress test,手関節を尺屈して軸圧をかけながら前腕回内外を他動的に強制,疼痛やクリックを触知)により行う。
画像診断はMRIが有用である。脂肪抑制T1強調画像,gradient echo T2強調像により損傷部が描出される。その他の画像診断として,遠位橈尺関節造影(造影後CT)がTFCC靱帯損傷の鑑別に有用である。
高齢者の単純X線で,TFCC円板部にCPPD沈着による石灰化像を認めることがある。
外傷性損傷では,受傷後3週以内の急性損傷に対して外固定による保存的治療を選択する。受傷後3カ月を経過した陳旧例については,症状や理学的所見の程度,画像所見により手術的治療を選択する。変性損傷では3カ月間の保存的治療を試みるが,奏効しない場合に手術的治療を選択する。
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