今回は「医療政策」の分析はお休みし、「医療経済学」の古典の原理的・批判的検討を行います。10月4日に成立した岸田文雄内閣の医療・社会保障政策の検討は本連載(117)(12月4日号)で行います。
医療経済学の最重要古典・原点は、ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの理論経済学者アローが1963年に発表した「不確実性と医療の厚生経済学」とされています(Arrow KJ:Uncertainty and the welfare economics of medical care. American Economic Review. 53:941-73. 田畑康人訳『国際社会保障研究』27:51-77, 1981)。本論文は、「医療特有の経済問題は、疾病の発生や治療の効果に不確実性があるということに着目すれば説明しうる」と主張しており、現在でも英語や日本語の医療経済学教科書でほぼ必ず引用されます。
しかし、私は以下の3つの疑問を持っています。①医療サービスの経済的特徴を過大評価、②「不確実性」は医療に固有の特徴・専売特許ではない、③医療保険の分析に、保険論の「モラルハザード」を無批判に持ち込んだ。以下、順番に説明します。