【温湿度,光,塵埃,虫とカビなどに留意】
古典籍などの貴重史料を保管する上での環境対策について紹介します。紙資料の劣化,損傷に影響を及ぼす温湿度,光,塵埃,虫とカビなどに留意するとよいでしょう。
温度と湿度の急激な変化は紙の劣化を早め,高温多湿は虫やカビなど微生物の発生をまねきます。書籍の保管場所は,温度22℃,相対湿度55%が推奨とされています1)。現実的には,18~26℃,50~60%が恒常的に維持できればよいでしょう。
光熱と紫外線は,紙の主成分であるセルロース繊維を弱めて脆くするとともに,料紙とそこに記されている文字や絵図を退色させます。太陽光は,紙や革,クロスなどを劣化させる紫外線が多く含まれているため,退色や強度の低下を起こします。また,蛍光灯の光にも紫外線が含まれており,長期的な曝露は背表紙の退色などを引き起こす原因になります。特に写真撮影の照明やコピー機などによる熱と光は,大きな損傷を与えるため,最小限にとどめるべきでしょう。
塵や埃は,虫やカビの温床となるため,清掃を心がけて衛生的に保つことが肝要です。ヒトから出た皮脂や食べかす,煙草の煙だけでなく,一酸化炭素,窒素酸化物,硫黄酸化物などの大気汚染物質も紙資料を劣化させます。状態に応じて布や和紙で包むことや,桐製や中性紙などの保存容器に入れて保管することも方法のひとつです。
シバンムシ,シミ,チャタテムシ,シロアリ,ゴキブリなどによる虫害と,カビなどの発生は紙資料を変色させたり,穴を開けたりします。わが国では,古来より害虫に忌避効果のある植物で紙を染めたり(経典の紙を黄檗で染色),虫が好まない臭いを発生する植物等と一緒に保管したりする工夫(掛軸の桐箱に入れる防虫香)も行われてきました。現在はパラジクロロベンゼン,樟脳,ナフタリンなどの有効な防虫剤がありますが,違う種類のものを併用すると化学変化を起こして溶解し,資料を汚染する恐れがあるためご注意下さい。
最後に,貴重史料として厳重に仕舞い込んでおくというのも危険です。できれば,1年のうちでよく空気が乾燥した日(春か秋が一般的)を選んで定期点検(目通し・風通し)を行い,必要であれば虫干しや燻蒸などのメンテナンスを施すことによって,より良い状態で末長く保管していくことができます。
ここでは簡単なポイントだけを紹介しましたので,酸性紙の劣化や皮装本のレッドロット(皮が粉状に化すもの)などについては,保存科学の専門書などをご参照下さい。
【文献】
1)国会図書館:所蔵資料の保存.
[https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/collection care/index.html]
【参考】
▶ 広島県立文書館:保存管理講座~文書・記録を残し伝えるために.
[https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/monjo kan/sub19.html]
▶ 田辺三郎助, 他:美術工芸の保存と保管. 登石健三, 監修. フジ・テクノシステム, 1994, p103-16, 374-5.
▶ 中藤靖之:古文書の補修と取り扱い. 雄山閣出版, 1998, p208-10.
▶ 「記録史料の保存と補修に関する研究集会」実行委員会, 編:記録史料の保存と修復―文書・書籍を未来に遺す. アグネ技術センター, 1995.
▶ 石崎武志:博物館資料保存論. 講談社, 2012.
【回答者】
野尻佳与子 内藤記念くすり博物館元学芸員