No.4781 (2015年12月12日発行) P.15
二木 立 (日本福祉大学学長)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-01-31
財務省の財政制度等審議会は11月24日、「平成28年度予算の編成等に関する建議」(以下、「建議」)を麻生太郎財務相に提出しました。建議は、来年度予算編成に直結する改革だけでなく、「骨太方針2015」(本年6月閣議決定)で定められた「2018年度までの集中改革期間」中の改革についても網羅的に示しています。以下、医療・社会保障改革に限定して、2016年度予算に関わる事項、「集中改革期間」に関わる事項の順に「建議」の中身を検討します。
「建議」の社会保障改革方針の最大の特徴は、「骨太方針2015」で示された社会保障関係費(国庫負担)抑制目標から二重に逸脱していることです。私がこう判断する根拠は以下の通りです。
「骨太方針2015」では、2018年度までの3年間の社会保障関係費の伸び率を「高齢化による増加分に相当する伸び(1.5兆円程度)」=1年当たり5000億円「程度」にすることが「目安」とされていました。それに対して、「建議」は、①5000億円「程度」を5000億円「弱」に下方修正し、しかも②「『目安』から逸脱するようなことは断じてあってはならない」「3年間の目安であるからといって、歳出の伸びの抑制を先送りすることがあってはならない」(13頁)という最大級の強い表現を用いて、「目安」という表現を事実上否定しました。
私は、本連載㊺(2015年7月18日号)で「骨太方針2015」の社会保障関係費抑制の数値目標を検討し、小泉内閣時代の「骨太の方針2006」の数値目標を7割も上回ることを示しました。当時、塩崎恭久厚生労働相らは、社会保障関係費抑制の数値目標に「目安」という表現が盛り込まれたことを根拠にして、「一定の評価」をしましたが、それは幻想だったことが明らかになったと言えます。
ちなみに、「骨太の方針2006」後、2006年11月に提出された財政審「平成19年度予算の編成等に関する建議」は、社会保障関係費の伸びを5年間で1.1兆円抑制する「改革努力を継続する」との「骨太の方針2006」の文面を引用し、「こうした方針を踏まえ、今後、給付の抑制をはじめとする更なる改革に取り組んでいかねばならない」と、中立的に主張していました(12頁)。これと比べると、今回の「建議」の表現がいかに厳しいかがよく分かります。
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