膵癌は切除不能や切除後の再発率が高く,予後不良な癌腫とされている。近年,切除可能膵癌に対する術前化学療法の有用性が報告され,標準的治療方針が大きく変化しつつある。
膵癌の診断においては,「膵癌取扱い規約」に従った進行度(Stage)診断とともに,切除可能性分類の評価が重要である1)。上腸間膜静脈や門脈,上腸間膜動脈,腹腔動脈,総肝動脈への浸潤の有無や程度により,切除可能(Resectable:R),切除可能境界(Borderline resectable:BR),切除不能(Unresectable:UR)に大別される。BRは動脈系への浸潤の有無でBR-A,BR-PVに細分され,URは局所進行によるUR-LAと遠隔転移を認めるUR-Mに細分される。
画像上切除可能膵癌であっても,腹腔洗浄細胞診陽性や微小な腹膜播種をきたす症例が存在するため,我々は全例で治療前に審査腹腔鏡を施行し,肝転移・腹膜播種陰性,腹腔洗浄細胞診陰性を確認している。
標準手術により癌遺残のないR0切除が可能であるが,Prep-02/JASP-05試験において術前ゲムシタビン+S-1(GS)療法群での生存期間延長(MST 36.7カ月vs. 26.7カ月)が示されたことから,現行の「膵癌診療ガイドライン」では術前化学療法が推奨されている2)。我々はGS療法を2コース施行後,手術を予定している。
標準手術のみでは組織学的癌遺残(R1)となる可能性が高く,術前補助療法が必要と考えられる。術前治療にはゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法またはmodified FOLFIRINOX(mFFX)療法が報告されているが,我々は両者を比較して,副作用が少なく,術前のperformance status(PS)低下をきたしにくいことからGnP療法を選択し,CA19-9値,画像所見をフォローして治療効果を評価し,手術の時期を判断している。
UR膵癌はUR-LA膵癌とUR-M膵癌に分類され,前者は局所浸潤のために外科的切除不能な膵癌,後者は遠隔転移を伴った膵癌を指す。両者ともに治療の第一選択は化学療法であり,GnP療法またはmFFX療法が推奨される。我々は副作用とのバランスの観点から,一次治療としてGnP療法を選択している。UR-LA膵癌は,大血管浸潤のため外科的切除不能な病変であるが,化学療法により縮小が得られればconversion手術が可能となりうる。画像所見,CA19-9値をフォローしつつ化学療法を継続し,切除可能と判断できれば切除手術を計画する。画像上,動脈周囲の軟部陰影が残存する場合は,化学放射線療法を併施してから手術にのぞむ。また,腹腔動脈や肝動脈の合併切除により切除可能となる症例も存在することから,UR-LA膵癌の治療にあたっては専門施設で判断することが望ましい。
二次治療にはPSの良好な症例にはmFFX療法を選択し,不安のある症例ではナノリポソーム型イリノテカン(nal-IRI+5-FU/LV)療法を選択する。また,MSI(microsatellite instability)-highの症例では,キイトルーダⓇ〔ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)〕,BRCA変異陽性ではリムパーザⓇ(オラパリブ)が使用可能となるため,標準的化学療法中に腫瘍増大が予想される場合は,早期の検査計画が望ましい。
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