No.5095 (2021年12月18日発行) P.14
登録日: 2021-12-15
最終更新日: 2021-12-15
中央社会保険医療協議会(小塩隆士会長)は12月10日の総会で、次期診療報酬改定に向けた意見書を取りまとめた。社会保障審議会がまとめた基本方針を受け、「全ての国民が質の高い医療を受け続けるために必要な取組についての協議を真摯に進めていく」との基本認識では診療側・支払側双方の意見の一致を見たとしながら、改定率については、診療側の「プラス改定しかあり得ない」、支払側の「引き上げる環境にない」との意見を併記した。大詰めを迎えた改定率を巡る動向について詳報する。
中医協は12月3日の総会で、2021年度の薬価調査・特定保険医療材料価格調査の速報値について審議した。2021年9月流通分における薬価の平均乖離率は約7.6%、特定保険医療材料価格は約3.8%で、20年度の前回調査(20年度)の8.0%から0.4ポイント縮小した。
初の中間年調査として実施された21年4月の薬価改定では、新型コロナウイルス感染症による医薬品流通への影響を鑑み、特例として2%の調整幅に0.8%の一定幅が上乗せされる緩和措置が講じられており、次期改定の取り扱いに注目が集まる。
薬価改定財源を巡っては、財務省が診療報酬本体への振り替えについて「フィクションにフィクションを重ねたもの」と指摘しており、本体改定財源としてどれくらい充当されるかが今後の焦点の1つとなる。
2022年度診療報酬改定の基本方針では、基本的視点として①新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築、②安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進、③患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現、④効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上─の4つの柱を打ち出し、①と②を重点課題に位置づけている。
中医協が厚労相に手交した意見書は、改定の基本方針を踏まえ公益委員がまとめたもの。
診療側は、医療経済実態調査の結果を受け、新型コロナウイルス感染症が医療機関経営に大きな打撃を与え、収益は大きく悪化し、新型コロナウイルス感染症関連の補助金を含んだ場合でも、経営はきわめて厳しいと指摘。
「急な新興感染症等の流行などの有事の際にも即座に対応できるよう、平時の医療提供体制の余力が必要であり、あわせて、医師等の働き方改革が確実に実行できるようにするとともに、医療機関等がそれぞれの状況に応じて幅広く、かつ恒久的な賃上げを行うことができるだけの原資を確保する必要がある。こうした状況等から、国民の安全を守るためには、地域の医療と医療従事者を支える適切な財源が必要であり、令和4年度の診療報酬改定では、薬価財源は診療報酬に充当した上で、プラス改定しかあり得ない」と本体プラス改定を強く要望した。
意見書は診療側と支払側の意見を併記した上で、新型コロナウイルス対応をはじめ、医療機能の分化・強化・連携、保健・医療・福祉のさらなる連携、医療従事者の働き方改革や処遇改善、地域・職域等における予防・健康づくりの取組、費用対効果、新しい医療技術など様々な課題を解決するため、診療報酬のみならず補助金、税制、制度改革など「幅広い施策を組み合わせて講じていくことが重要」と明記した。
診療報酬本体のプラス改定を目指す日本医師会の中川俊男会長は12月7日、日本歯科医師会、日本薬剤師会の両会長とともに後藤茂之厚労相にプラス改定を直接要望した。続く12月10日には、TKC医業経営指標に基づく独自の経営動態分析を公表。2020年度の医療機関の経営状況について①一般病院では医業利益率(除補助金)が前年度に比べて大幅に低下し、経常利益率(含補助金)も低下、②診療所では医業利益率(除補助金)、経常利益率(含補助金)ともに大幅に低下、無床診療所(法人)の小児科、耳鼻咽喉科は赤字、③役員報酬は病院、診療所ともに引き下げられた、④病院、診療所とも損益分岐点比率が95%を超える危険水域に達し、きわめて脆弱な経営体質─とまとめた。
診療所では法人・個人、有床診療所・無床診療所ともに補助金を除いた医業利益率が低下していることを受け「今後、コロナ関連の補助金が縮小された後、たちまち医療機関経営が綻びかねない状況にあり、政府が収入の引き上げを決定された看護職員等以外の処遇改善の余裕はない。安全・安心な医療提供体制を持続、向上させるために診療報酬財源によるさらなる下支えが必要」と診療報酬本体のプラス改定の必要性を訴えている。