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[緊急寄稿]SARS-CoV-2オミクロン株に対するワクチン効果─日本では免疫が消失,ブースター接種により感染爆発を防ぐべき(菅谷憲夫)

No.5100 (2022年01月22日発行) P.28

菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院小児科・感染制御,慶應義塾大学医学部客員教授)

登録日: 2022-01-12

最終更新日: 2022-01-17

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株に対するワクチン効果について,ごく最近(2021年12月31日),詳細で多数の症例を基にしたデータが,英国のUK Health Security Agency(UKHSA)から発表された。「SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England」1)は,オミクロン株患者とデルタ株患者,それぞれ20万人近くの患者を対象としたレポートである。

オミクロン株患者では入院のリスクは低い

UKHSAのレポートによると,救急外来受診または入院のリスクは,オミクロン株患者ではデルタ株患者のおよそ半分であった(hazard ratio 0.53,95%CI:0.50〜0.57)。さらに,デルタ株患者に比べて,オミクロン株患者は,救急外来から入院となるリスクは,1/3であった(hazard ratio 0.33,95%CI:0.30〜0.37)。デルタ株患者に比べて,入院のリスクは低いと考えられた。

ほかの多くの報告もオミクロン株患者は症状が軽いとし,日本のマスコミも軽症と報道しているが,本レポートも含め,対象患者が若年成人層であることに注意が必要となる。最も重症化が懸念されている高齢者で,軽症かどうかは不明である。

発病防止効果はオミクロン株では低い

UKHSAのレポートでは,アストラゼネカ社,ファイザー社(BNT162b2),モデルナ社(mRNA-1273)のワクチンについて,発病防止効果の経時的な変化を検討している。図1には,日本で主に使用されているファイザー社のワクチン(BNT162b2)の効果を示した。ファイザー社のワクチンは,デルタ株に比べて,オミクロン株に対して効果が低いことが,一見して明らかである。最も重要なことは,2回目の接種20週後には,発病防止効果が10%以下に低下している点である。

日本人における成人のワクチン接種率は約80%前後と高いとはいえ,既に,ほとんどの日本人では接種後20週を過ぎており,現状,日本では発病防止効果は消失している事実は極めて深刻である。日本人は,丸腰の状態で,極めて感染力の強いオミクロン株の流行を迎えていることになる。

発病防止効果はブースター接種で急速に回復

UKHSAのレポートでは,ファイザー社のワクチンを2回接種した人に,さらに3回目としてファイザー社またはモデルナ社のワクチンによるブースター接種を行うと,わずか1週間で,発病防止効果は65〜80%に回復することが示された(図1)。

オミクロン株による感染爆発にさらされている欧米諸国がブースター接種を急ぐ理由がここにある。ブースター接種には,即効性がある。米国では,18歳以上の成人の73.1%が2回のワクチン接種を受け,18歳以上では38.3%が,65歳以上では59.6%がブースターを受けている2)。日本のブースター接種は,高齢者でさえ,ほとんど実施されておらず,これも深刻な事態である。

発病防止効果の基本的な意味

コロナワクチンの発病防止効果は,通常,インフルエンザワクチンの効果判定に使用しているtest-negative case-control designで判定されている3)。10%の発病防止効果の意味は,100人の発病したコロナ患者がいるとして,発病前に全員がワクチンを接種していたら,10人はワクチン効果で発病を免れるが,90人が発病するという意味である。

対照的に,変異株の出現前,ファイザー社のワクチンによる発病防止効果は,95%あるとされたが4),その場合は,100人の発病したコロナ患者がいたとして,その全員が発病前にワクチンを打つと,95人が発病を免れ,わずか5人が発病することになる。

不顕性感染も考慮すると,日本ではワクチンによるオミクロン株感染・発病防止効果は,現在ほとんどなく,オミクロン株が出現した日本は,危険な状況にある。

ワクチンによる入院防止効果

UKHSAのレポートでは,オミクロン株による入院患者815例を対象として,入院防止効果も報告している。年齢は,0〜100歳まで,中央値は45.5歳であった。アストラゼネカ社,ファイザー社,モデルナ社のワクチンをまとめた数値が示された。オミクロン株で発症した患者での入院防止効果は,ワクチン無接種患者と比べて,1回接種で35%(デルタ株では73%),2回接種から24週後までは67%(デルタ株では90%),2回接種から25週以降では51%(デルタ株では85%)であった。3回接種では,オミクロン株感染者でも88%と高い入院防止効果があった。

オミクロン株に対する入院防止効果は,アストラゼネカ社,ファイザー社,モデルナ社のワクチンをまとめた数値ではあるが,発病防止効果よりもかなり高く,特に3回接種後には88%というかなり高い効果が示された。欧米諸国がブースター接種を急ぐ理由がここにもある。

入院防止効果の持続期間については,さらに調査が必要であるが,発病防止効果よりも,長期間有効と考えられる。したがって日本でも,成人の2回接種者では,現状でも51%の入院防止効果は期待できると思われる。

課題はブースター接種

欧米諸国は,経済への悪影響を考慮しロックダウンを避け,90%近い入院防止効果が期待できるブースター接種に全力を投じている。日本では,ブースター接種は大幅に遅れているので,発病防止効果は期待できず,ブレークスルー感染は避けられない。現状のままでは,爆発的なオミクロン株感染が起きる危険が迫っている。2回接種した成人では,51%の入院防止効果は期待できることは安心材料であるが,高齢者などハイリスク群では,そこまでの入院防止,重症化防止効果が持続しているかどうかは不明である。ブースター接種を急がなければ,オミクロン株が中心の第6波では,欧米以上の被害が出る可能性もある。

小児の入院患者が増加する危険性

小児に関しては,オミクロン株がデルタ株に比べて軽症という証拠はない点に注意が必要である。米国では,既に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により,1000人以上の小児(18歳未満)が死亡しているが,オミクロン株流行に伴い,小児の患者,さらに入院患者が増加していることが報道されている。米国では,1回以上のワクチン接種を受けた割合は,12歳から18歳までは63%,5歳から11歳までは25%となっている5)。一方,日本ではハイリスクと考えられる低年齢小児の接種がまったく実施されていないのは懸念材料である。

オミクロン株は麻疹なみの感染力がある

オミクロン株の感染力が極めて高いことは事実で,デルタ株の基本再生産数は,水痘なみの8と言われていた(水痘の免疫のない集団に1人の発症者が出ると8人が感染する)6)。オミクロン株では,その数倍はあるとされるので,麻疹の感染力に近いと考えられる(麻疹の免疫がない集団に1人の発症者がいたとすると,12〜14人が感染する)7)

麻疹と同等の感染力を持つウイルス感染症が日本で流行り始めたと考えると,ブースター接種なしで,マスク,手洗い,social distancingなどで対処するのは厳しい状況である。一般に,麻疹の予防にはマスク着用は効果が低いとされる6)

日本が今まで欧米よりもコロナの被害が少ない大きな理由としてマスクの着用が徹底されていたことが指摘されて来たが,麻疹なみの感染力を持つオミクロン株に対して,一部の米国の専門家は,一般人でもN95マスクの着用を勧めている。

おわりに

ブースター接種が遅れ,自然感染による免疫もほとんどない日本で,強い感染力を持つオミクロン株が出現したことは,深刻な事態である。欧米を見ても,オミクロン株の患者数増加に比べて,入院患者数の増加が比較的に少ないことは事実である。しかし,死亡者数は増加していないが,入院患者数は明らかに増加傾向にある。日本や世界各国で,高齢の患者がまだ少ないこともあり,現時点で,オミクロン株が軽症と考えるのは早計である。オミクロン株の流行で,各国で小児入院例が多数出ていることも,深刻な懸念材料である。

【文献】

1)UK Health Security Agency:SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England─Technical briefing:Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01(B.1.1.529). 2021.
 [https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1044481/Technical-Briefing-31-Dec-2021-Omicron_severity_update.pdf]

2)Centers for Disease Control and Prevention:COVID-19 Vaccinations in the United States. 2022.
 [https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#vaccinations_vacc-total-admin-rate-total]

3)菅谷憲夫:インフルエンザ診療ガイド2020-21. 菅谷憲夫, 編. 日本医事新報, 2020, p16-35.

4)Polack FP, et al:N Engl J Med. 2020;383(27):2603-15.

5)American Academy of Pediatrics:Summary of data publicly reported by the Centers for Disease Control and Prevention Date:1/05/22
 [https://www.aap.org/en/pages/2019-novel-coronavirus-covid-19-infections/children-and-covid-19-vaccination-trends/]

6)菅谷憲夫:医事新報. 2021;5078:28-30.
[https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=17780]

7)国立感染症研究所感染症情報センター:麻疹(ましん,はしか)について. 2010.
[http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/QA.html#q1-3]

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